研修は受けた。型も覚えた。なのに、現場で通用しない。
——これは私自身が経験したことです。
営業をやっていた頃、研修で教わった通りにトークを喋りました。
相手の反応が悪いときの切り返しも、ちゃんと習っていたので、その通りに話の流れも変えてみました。
でも、反応は変わりませんでした。
営業がそんな簡単なものだとは考えていませんでしたが、そのとき一番つらかったのは、うまくいかなかったこと自体ではありません。
「じゃあ、どこを直せばいいのか」が、自分でまったくわからなかったことです。
原因が分かったのは、後になってからです。
あのとき自分がやっていたのは、ただの自己満足のPR。
相手からどんな反応を引き出したいのかが、自分の中でハッキリしていませんでした。
目指す場所がないから、ズレても”どこに向かって直せばいいか”がわからない。
当然でした。
——これは、研修を「受けた側」としての僕の失敗談です。
でも、研修を「作る側・任される側」になった今、あの失敗の本当の原因がよく分かります。
あの研修は「型」は教えてくれました。
でも「何のためにその型を使うのか」——つまり目的を、教えてくれなかった。
だから受けた側は、うまくいかないときに自力で直せなかったんです。
これは、いま研修を任されているあなたにも関わる話です。
社内研修は「やっても意味がなかった」と言われがちですが、意味のない研修が生まれる原因の多くは、実はシンプルです。
それは、研修の目的が、ぼんやりしていること。
これは精神論ではなく、人材育成の世界でも「目的を先に決めるのは鉄則」とされている、設計の話です。
目的の決め方ひとつで、研修が“現場で使われるもの”になるか“やっただけのもの”になるかが変わります。
この記事では、
- 何が”いい目的”で、何が”ダメな目的”なのか
- どうやって目的をつくればいいのか
- なぜ目的の明確さが、現場での成果につながるのか
を、研修担当がそのまま実務で使えるレベルまで掘り下げていきます。
なぜ「型は完璧なのに動けない人」が生まれるのか

目的が曖昧な研修は、なぜうまくいかないのか。
一言でいうと、関わる人がそれぞれ違う方向を見てしまうからです。
もう少しわかりやすく言うと、同じ研修を、みんなが「別のもの」だと思っている状態になっているということです。
たとえば同じ接客研修でも、担当者は「マナーを覚えさせる場」だと思い、受講者は「とりあえず座って聞く時間」だと思い、上司は「早く即戦力にする場」だと思っている。
目的が言葉になっていないと、こんなふうに全員の思い描くゴールが平気でバラバラになります。
これを、「受講者」「担当者」「会社」3つの立場から見ていきます。
① 受講者が「直せない人」になる
私の失敗が、まさにこれです。
営業トークの型、切り返しの型まで持っていました。
それでも現場でうまくいかず、しかもどこを直せばいいかわからなかった。
理由はシンプルで、「目指す状態」を持っていなかったからです。
たとえば、あの営業トークに「相手が”もう少し詳しく聞かせて”と一言でも言う状態をつくる」という目的があったとします。
すると、冒頭で相手が興味なさそうな反応をしたときにも、ただ「断られた」で終わりません。
- 相手に興味を持ってもらえなかったのか
- 自分に関係ある話だと伝わっていなかったのか
- いきなり売り込まれると感じさせてしまったのか
- それとも、そもそも今は話すタイミングではなかったのか
目的があれば、この違いを見分けようとすることができます。
だから「もっと強く押せばよかった」ではなく、「最初に相手が判断しやすい入り方になっていたか」「聞く理由をつくれていたか」と考えられる。
反応の悪さを、ただの失敗で終わらせず、”どこがズレていたのか”として見直せるようになります。
でも当時の僕には、この「相手にこうなってほしい」がありませんでした。
だから反応が悪くても、それが”何からのズレ”なのか測れない。
こうなると、改善しようとしても「もっと元気よく話す」「もっと商品を説明する」「もっと切り返しを覚える」といった、表面的な修正にしかなりません。
本当に直すべき場所は、そこではないかもしれないのに。
目的がないまま型だけを覚えると、現場で起きた失敗を分析できない。
だから、同じような場面で何度もつまずいてしまう。
これは能力の問題ではありません。
目的を渡されなかった人は、構造的に、“現場で修正”することがグッと難しくなるんです。
研修を受けた人が現場で動けないとき、原因は本人のやる気や理解力に見えがちです。
でも実際は、研修が「何を目指すのか」を渡していなかっただけ、というケースがとても多いんです。
② 担当者が「中身選び」で迷子になる
これは、研修を作る側の問題です。
目的がはっきりしていないと、担当者は研修の“中身選び”のたびに迷います。
どのテーマを扱うか、どの実例を出すか、どのワークを入れるか、どこを削るか、判断の基準がないからです。
基準がないと、どうなるか。
「せっかくだから、あれもこれも入れておこう」となります。
その結果、情報が多すぎてまとまらない研修ができあがります。
僕が受けたあの営業研修も、今思えばそうでした。
トークの型があって、切り返しの型があって、心構えの話があって……と、要素はたくさん詰まっていた。
でも「この研修を受けた人が、現場で何をできるようになればゴールなのか」が一本通っていなかった。
だから要素は多いのに、受けた側の僕には芯が残らなかったんだと思います。
これは企業研修づくりの基本とされる「まずゴールを決めてから中身を考える」の、ちょうど逆をやってしまっている状態です。
ゴールがないから中身が絞れず、絞れないから盛り込みすぎる。悪循環です。
③ 会社が「効果があったか」判断できない
これは研修が終わったあとの問題です。
研修がうまくいったかを判断するには、「最初に決めた目的」と「研修後の変化」を見比べる必要があります。
ところが目的が曖昧だと、比べる基準そのものが存在しません。
残るのは、「楽しかった」「良い話だった」という”雰囲気評価”だけ。
- なぜこの研修をやったのか
- どんな変化を期待していたのか
- 効果はあったのか
この基本的な問いに、誰も答えられなくなります。
そして評価できない研修は、改善もできません。
どこが良くてどこがダメだったか判断できないから、来年も同じ内容の研修をおこなう。
毎年”同じ課題”が繰り返される研修は、たいていここが原因です。
このパートの要点
目的が曖昧だと研修がうまくいかないのは、単なる経験則ではありません。
3つの立場すべてで、具体的な不具合が起きます。
受講者:目指す状態がないから、ズレても直せない
担当者:判断の基準がないから、中身を盛り込みすぎる
会社:比べる基準がないから、効果を測れず改善もできない
どれも根っこは同じで、「目指す場所が言葉になっていない」こと。
だからこそ、まず目的をはっきり言葉にすることが、研修成功のスタートラインになります。
研修の目的は「行動」で決める|3ステップ

ここまでで、「目的が曖昧だと現場で効かない」理由がわかったと思います。
では、どうやって目的をつくればいいのか。
大事なのは、かっこいいスローガンをひねり出すことではありません。
「どんな行動ができるようになるか」で決めること。
これに尽きます。
教育設計の世界でも「目標は行動で書くと分かりやすい」とされていますが、理屈はあとで触れます。
ここでは、実際に手を動かす3ステップを見ていきます。
例として、私があの営業研修で“本当はこう設計してほしかった”目的を、一緒に組み立ててみます。
ステップ①:まず”困っていること”をひとつ選ぶ
研修を企画するとき、多くの担当者はつい欲張ります。
あれも教えたい、これも改善したい、と。
気持ちはわかります。
でも、研修おこなう意味、効果を最大にしたいなら最初に扱うテーマはひとつに絞るのがコツ。
現場の困りごとを、いくつか挙げてみます。
- 新人のミスが減らない
- 接客の品質が、人によってバラバラ
- 会議が長いのに、結論が出ない
- リーダーが、うまくメンバーに仕事を任せられない
- 新人が、お客さんに話を聞いてもらえない
大事なのは、この中から一番気になるものをひとつだけ選ぶこと。
ここでは例として、私自身がつまずいた 「新人が、お客さんに話を聞いてもらえない」 を選んで、最後まで通してみます。
あなたの現場なら、別の困りごとに置き換えて読み進めてください。
ステップ②:その原因をざっくり考える
ここは深掘りしなくて大丈夫です。
なんとなく“これが原因かな?”で十分。
「新人が話を聞いてもらえない」の原因を、ざっくり当ててみます。
- 型(トーク)は覚えたけど、それを”何のために”使うか分かっていない
- 自分が喋ることに必死で、相手の反応を見られていない
- 断られたとき、どこを直せばいいか分からず、同じ失敗を繰り返す
——これらは、まさに当時の私です。
原因がざっくり見えるだけで、研修で何を扱うべきかの方向が決まってきます。
ステップ③:行動レベルの”目的文”にする
ここが一番大事。
目的は、「〜できるようにする」という行動の形にしておきます。
こうすることで、研修で扱う中身が自然と決まります。
さっきの原因をふまえて、あの営業研修の目的を書き直すと、こうなります。
これを営業研修の目的として掲げた瞬間、研修で教えるべきことが一気に絞れます。
- 「自分が何を喋るか」より「相手にどう反応してほしいか」を先に考える練習
- 相手の疑問を聞き出し、その疑問を解決するパターン
- 反応が悪かったとき、”どこがズレたか”を仕分けする振り返り方
逆に、こう掲げなければ、当時の研修のように「トークの型」と「切り返しの型」を渡して終わり、になります。
同じ研修時間でも、中身がまったく変わるんです。
ポイントは、目的を”行動”で書くこと。
そうすると研修の内容がブレず、話すポイントも自然と絞れます。
3ステップのまとめ
- ①困りごとをひとつ選ぶ:欲張らず、一番効くテーマに絞る
- ②原因をざっくり考える:完璧でなくていい、方向が見えればいい
- ③行動の目的文にする:「〜できるようにする」の形にすると、中身が勝手に決まる
研修にかっこよさは要りません。
“研修のあと、その人が何をできていれば成功か”——これが一文で書けたら、目的づくりはほぼ完成です。
うまくいかない目的の”4パターン”

ここまでで、良い”研修の目的”の作り方は見えてきたと思います。
逆に、「こういう目的はうまくいきにくい」というパターンも知っておくと、自分の研修をチェックするときに役立ちます。
どれも、私自身の経験や、研修設計の考え方から見て“成果が出にくい”とされるものです。
うまくいきにくい目的の代表的な4パターンを、順に見ていきます。
① 抽象的すぎる目的
ひとつ目は、
- コミュニケーション力を高める
- 社員の成長を促す
といった、ふわっとした目的です。
この2つの言葉としては立派に見えます。
でも、この目的からは“何を学び、どんな行動ができるようになればいいのか”が、まったく見えてきません。
私が経験した営業研修も、今思えばこれでした。
会社が掲げていたのは、「売れるようになる」という目的。
でも、”売れる”というのは結果であって、行動ではありません。
結果を目的にすると、研修はこうなります。
「売れるようになろう」と気持ちを鼓舞するだけで終わり、「そのために、明日の営業で何をどう変えるのか」という改善策やコツまでは、誰も教えてくれない。
僕が本当にほしかったのは、やる気を出す言葉ではなく、“次はここをこう直せばいい”という具体的な一手のほうでした。
ここで、こう思う人もいるかもしれません。「じゃあ、成績のいい人にコツを共有させればいいのでは?」と。
でも、それだけでは、うまくいきません。
そもそも成績を出せる人は、もともとセンスがあったり、自分で必死に勉強して改善を重ねてきた人が多い。
その人にとって、努力の末に掴んだコツを「はい、みんなに共有して」と求められるのは、抵抗があって当然です。
下手をすれば、自分の努力を軽く見られたように感じて、かえってやる気を削いでしまう。
だからこそ、研修に必要なのは、個人のセンスや努力に頼らず、全体を底上げする仕組みです。
「あの人みたいに頑張れ」ではなく、誰がやっても一定のところまで届く道筋を用意する。
その第一歩が、目的を「〜できるようにする」という行動の形で書くことです。
目指す行動がはっきりするほど、研修で教えるべき中身も決まってきます。
② モチベーションだけを目的にする
ふたつ目は、「やる気を出してほしい」「モチベーションを上げたい」を、そのまま研修の目的にするパターンです。
気持ちが高まること自体は、悪いことではありません。
問題は、その気持ちが長続きしないことにあります。
僕にも、はっきりした心当たりがあります。
営業をやっていた頃、一日の終わりや週末・月末に、成績の良かった人がその月の頑張りや手応えを話してくれる時間がありました。
聞いた直後は、正直、かなりやる気が上がります。
「よし、自分もやるぞ」と。
でも、次の日の自分の行動が変わったかというと——ほとんど変わっていませんでした。
正確に言うと、変わった部分もあります。
やる気が出たぶん、声のトーンやテンションは明るくなりました。
でも、肝心のトークの中身は、何も変わっていなかったんです。
元気に話しても、話す中身が前と同じなら、相手の反応も同じ。
当然、契約率は上がりません。
そして成果が出なければ、上がったはずのモチベーションも平均まで戻り、また今まで通りの自分に逆戻りです。
やる気が上がること自体は、いいことです。
ただ、やる気は”燃料”であって、”進む方向”ではありません。
燃料だけ足しても、進む先が決まっていなければ、その場で空回りするだけなんです。
研修も同じです。「楽しかった」「いい話だった」で終われば、翌日の仕事は変わりません。
本当に大事なのは、研修のあとに行動が変わったかどうか。
モチベーションアップだけを目的にすると、気持ちは残っても行動には落ちず、成果に繋がりにくくなります。
③ 去年の焼き直しになる目的
みっつ目は、「去年も研修をやったから、今年も同じ内容で」というパターンです。
これは研修担当の”あるある”かもしれません。
でも、去年と今年で、現場の課題が同じとは限りません。
担当者が今の課題を確かめないまま去年の内容をそのまま流すと、こんなズレが起きます。
- 今の現場が抱える課題と、研修の内容が合っていない
- 受ける人のレベルが、去年とは変わっている
- 今の時代に合わない、古い内容が混ざっている
こうなると、研修は”やること自体が目的”になってしまいます。
中身が現場に効くかどうかより、「毎年やっているから今年もやる」が先に来てしまう。
これでは、時間をかけても現場は何も変わりません。
④ 目的が広すぎて”全部入れたくなる”パターン
よっつ目は、「せっかく研修をやるなら、あれもこれも詰め込もう」というパターンです。
新人教育も、ビジネスマナーも、社内文化の共有も、全部まとめて一回の研修で——。
一見、効率的に見えます。
でも実際は、内容が散らかって、受けた人の頭に何も残らない研修になりがちです。
これも、私は営業研修で経験しました。
トークの型があって、切り返しの型があって、心構えの話もあって、と要素は盛りだくさん。
でも、本来やるべきことは逆でした。
要素を並べる前に、まず研修のゴールをひとつに決めるべきだったんです。
たとえば「新人が、お客さんから”もっと聞きたい”という反応を引き出せるようになる」。
まずこのゴールを一点に定める。
そのうえで、型も切り返しも心構えも、”そのゴールに必要な分だけ”を選んで渡す。
ゴールが決まっていれば、うまくいかなかったときの見返し方も変わります。
「”もっと聞きたい”という反応を引き出す」というゴールがあれば、こう振り返れるんです。
- お客さんの最初の質問に対して、自分の答え方は合っていたか
- 自分ばかり喋って、相手に圧をかけてしまっていなかったか
ゴールという”見るべき基準”があるから、行き当たりばったりではなく、観点を持って振り返れる。
そうやって少しずつ直していけます。
要素をたくさん渡すより、この一本の基準を渡すほうが、よほど現場では効果的です。
受ける側だった私に起きたのは、こういうことでした。
明るく元気に、教わったトークの型をとりあえず最後まで喋って、それで終わり。
つまり、いつのまにか目的が「営業トークの流れを、ひと通り話しきること」にすり替わっていたんです。
相手からどんな反応を引き出すかではなく、”型を最後まで喋る”こと自体がゴールになっていた。
これでは、いくら要素を教わっても、現場は変わりません。
渡された型の数だけ、”喋って終わり”が増えていくだけです。
4つに共通していること
ここまで、うまくいきにくい目的を4つ見てきました。
- 抽象的すぎる目的
- モチベーションだけを目的にする
- 去年の焼き直しになる目的
- 目的が広すぎて、全部入れたくなる
一見バラバラに見えますが、4つとも、行き着く先は同じです。
- 何を教えればいいか絞れず、内容が散らかる
- 受けた人の記憶に残らない
- 行動に結びつかない
- 結局、何を持ち帰ればいいのか分からない
どれも根っこは、目的が「行動の形」になっていないという一点にあります。
裏を返せば、対策もシンプルです。
目的をひとつ・具体的・行動の形で決める。
それだけで、この4つの失敗はまとめて避けられます。
ここまで見てきた「良い目的の作り方」に、そのまま戻ってくるわけです。
目的が決まると、研修の”成果”を次に活かせる

記事の前半で、こんな話をしました。目的が曖昧だと、会社は「この研修に効果があったのか」を判断できない、と。
これは裏を返すと、こうなります。
ここまで話してきたのは、目的があると、受けた本人が自分の行動を振り返れるようになる、という効用でした。
ここで見たいのは、もう一段上——研修を企画した側が、研修そのものの成否をどう捉えるかという視点です。
たとえば、あの営業研修にさっきの目的——「お客さんから”もっと聞きたい”を引き出せるように」——があったとします。
すると担当者は、研修後にこう考えられます。
「今回の新人たちは、狙った通り”聞いてもらえる”側に近づけただろうか?」と。
ここで見るのは、個人が上手くなったかではありません。
この研修のやり方が、新人全体に効いたのかどうかです。
- 今回の新人は、前回の研修を受けた代よりも、現場での手応えを掴むのが早かったか
- それとも、また同じところ(たとえば”喋りすぎ”)で、多くの新人がつまずいているか
こうした”全体の傾向”が見えると、担当者は次の一手を打てます。
多くの新人が同じ場所でつまずいているなら、そこは研修の教え方に穴がある、と分かる。
次回、そこを厚くすればいい。
それでも目的が決まらないときの、具体的なコツ

ここまで読んで、「言いたいことは分かった。でも、いざ自分で目的を決めようとすると、うまく言葉にできない」と感じた人もいると思います。
大丈夫です。
目的づくりでつまずくのは、たいてい決まったパターンがあります。
この3つです。
そして、この3つは同じ方法で一気に解けます。
目的を、小さく切ること。
ここからは、そのやり方を3つ紹介します。
コツ①:期間を短く区切る
目的は、扱う期間を短くするだけで、一気に具体的になります。
たとえば、こんな目的を立てたとします。
- 今年度、新人教育を強化する
- 今期、社員のコミュニケーション力を伸ばす
どちらも、間違ってはいません。
でも、期間が長すぎて、“明日から何をするか”が見えてきません。
これを、こう短く区切ります。
- 来月までに、”困ったら質問できる”新人を育てる
- 次の一週間で、朝の挨拶の仕方を全員そろえる
期間が短くなるほど、目的は行動に近づきます。
「今年度」より「来月まで」のほうが、やるべきことが具体的に見えてくるんです。
コツ②:”全員まとめて”をやめて、役割で分ける
目的は、対象を役割ごとに分けるだけで、ぐっと見えやすくなります。
たとえば「コミュニケーション力を伸ばす」。
これは誰に・どの場面で・何を、が全部あいまいです。
これを、役割で分けてみます。
- 新人向け:困ったとき、自分から質問できるようにする
- リーダー向け:メンバーからの質問を、受け止められるようにする
- 管理職向け:質問しやすい雰囲気をつくる声かけを、習慣にする
同じ「コミュニケーション」でも、役割ごとに”やってほしい行動”はまるで違います。
分けることで、それぞれに何を教えればいいかが、はっきりしてきます。
コツ③:行動を”ざっくりした数字”にしてみる
数字を入れると、目的はさらに具体的になります。
ただし、厳密なノルマを決める必要はありません。
行動をイメージしやすくするための、ざっくりした目安で十分です。
たとえば、こんなふうに。
- 新人が、一日に一回は、仕事の進め方について質問できるようにする
- 会議の議題を、開始の三十分前までに共有する習慣をつくる
- クレーム対応の基本の”三つの手順”を、言えるようにする
「質問しやすくする」より「一日に一回質問する」のほうが、できたかどうかが分かりやすい。数字が入るだけで、目指す行動がぐっとくっきりします。
それでも決まらないなら、この質問に答えてみる
3つのコツを試しても、まだ目的が固まらない。
そんなときは、次の質問に、順番に答えてみてください。
- 今、現場で一番困っていることは何か
- その原因は、どのあたりにありそうか
- どう行動できるようになれば、その困りごとは解決に近づくか
- 研修のあと、どんな変化があれば”成功”と言えるか
- 今回の研修で、あえて”やらないこと”は何か
- この研修の目的を、上司に一言で説明するとしたら、何と言うか
全部に答える必要はありません。
答えられるものから埋めていくだけで、目的の輪郭が見えてきます。
特に効くのは、4番目の質問です。
これに一文で答えられたら、それがもう、あなたの研修の目的です。
ここまでの話の”裏づけ”(読み飛ばしてOKです)

ここまでの内容は、僕自身の現場での失敗がベースになっています。
ただ、これは僕の経験談だけの話ではありません。
「まず目的を決める」「目的は行動で書く」という考え方は、人材育成や教育設計の世界でも、昔から言われてきたことです。
ここでは、その裏づけを、代表的なものだけ手短に紹介します。
① 研修づくりは”目的を決める”から始まる(ADDIEモデル)
世界中で使われている研修設計の型に、「ADDIE(アディー)モデル」があります。
分析→設計→開発→実施→評価、という5つの段階で研修をつくる考え方です。
大事なのは、一番最初が「分析」=目的やニーズを決める段階だということ。
目的が曖昧だと、その先の設計すべてがズレる。
だから最初に目的を固める、というのが世界共通の基本になっています。
② 目標は”行動”で書く(メイガーの考え方)
教育設計の世界には、「学習目標は”行動”で書く」という基本ルールがあります。
たとえば漢字なら、「漢字を理解する」ではなく「”薔薇”を読める」「”憂鬱”を書ける」。
前者(漢字を理解する)はできたか分かりませんが、後者はやってもらえばすぐ分かります。
目標を”行動”で書くとは、こういうことです。
でも「説明できる」「手順を実践できる」なら、目に見えて確認できる。
この記事で「目的は行動の形で書く」と繰り返してきたのは、この考え方に沿っています。
③ 研修の価値は”満足”ではなく”行動の変化”(カークパトリックモデル)
研修の効果を測る有名な考え方に、「カークパトリックの4段階」があります。
研修を、
- 満足したか
- 内容を学べたか
- 行動が変わったか
- 仕事の成果が変わったか
の4段階で見るものです。
このモデルでも、本当に大事なのは③の行動の変化と④の成果とされています。
「楽しかった」(①の満足)だけでは価値にならない。
この記事で何度も触れてきたことの、裏づけです。
④ 目的から逆算して設計する(バックワードデザイン)
まず目的(ゴール)を決めて、そこから逆算して内容を選ぶ
この進め方を、教育の世界では「バックワードデザイン(逆算設計)」と呼びます。
目的 → 内容 → 方法、の順で組み立てる。
ゴールが決まっていれば、そこに必要な内容だけを選べばいい。
この記事で「目的が決まると内容が絞れる」と伝えてきたのは、まさにこの考え方です。
まとめると
名前は難しそうに見えますが、4つが言っていることは、実はどれも同じです。
この記事でお伝えしてきたことは、現場の経験則であると同時に、こうした人材育成の考え方とも一致している——ということだけ、頭の隅に置いてもらえれば十分です。
まとめ:まずは”目的をひとつ”だけ
研修がうまくいかない原因の多くは、能力でも予算でもなく、目的がぼんやりしていることでした。
私自身、営業の現場で痛感しました。
トークの型は持っていた。切り返しの型まで持っていた。
それでも、”何のために使うのか”という目的がなかったから、うまくいかないときに直しようがなかった。
でも、目的をひとつ決めるだけで、多くのことが変わります。
- 何を教えればいいかが、絞れる
- 受けた人が、うまくいかないときに自分で振り返れる
- 研修のあと、何を見ればいいかが分かり、次の研修に活かせる
しかも、良い目的の作り方はシンプルです。
この研修が終わったあと、社員がどんな行動をしていたら成功か?
この問いに、一文で答えるだけ。
完璧を目指さなくて大丈夫です。まずは”目的をひとつ”。
小さく、短く、行動の形で。それだけで、研修はぐっと作りやすくなります。
「うちの研修、目的から見直したい」と思ったら
ここまで読んで、
言いたいことは分かった。でも、自社の研修の目的を、いざ自分ひとりで決めるのは難しそうだ
そう感じた方もいるかもしれません。
それは、当然だと思います。
目的を決めるには、自社の現場で今いちばん困っていることを見極めて、それを”行動の形”に落とし込む必要があります。
日々の業務のかたわらで、ここまでやりきるのは簡単ではありません。
私は、中小企業向けに、研修の”設計”からお手伝いしています。
「何を目的にすべきか」を一緒に整理するところから始められるので、研修の方向性がまだ固まっていない段階でも大丈夫です。
うちの場合、何を目的にすればいいんだろう?
その入り口の部分から、ご相談いただけます。
※ なお、目的が固まったあと、その内容を”繰り返し教えられる形”にするために、研修動画をつくるお手伝いもしています。「教える人によって伝わり方が違う」「毎回同じ説明に時間がかかる」といった段階になったら、あわせてご相談ください。


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