ビジネスマナー研修が“形だけ”で終わる本当の理由|崩れるのは基準が上書きされるから

今回は、過去にいただいたビジネスマナー研修に関するお問い合わせを題材に、共有できる部分があればと思い、記事にしました。

ご相談をくださったのは、不動産会社で人事・研修を担当されている方でした。

件名:新人社員のビジネスマナー研修についてのご相談

はじめまして。
不動産会社で人事・研修を担当しております。
弊社では毎年、新入社員を対象にビジネスマナー研修を実施しています。
電話応対や敬語、報連相、お客様対応など、基本的な内容については入社時に一通り研修を行っています。
ただ、配属から数か月すると、現場の店長や先輩社員から、
「電話対応がまだできていない」
「報告や相談のタイミングが遅い」
といった声が上がってきます。
そのため、これまでもフォロー研修を実施したり、ビジネスマナーをもう一度確認する機会を設けたりしてきました。
しかし、研修直後は改善したように見えても、しばらくすると同じような声が出てきます。
新人本人に話を聞くと、
「研修で習ったことと、現場で先輩から言われることが違う」
「先輩によって言うことが違い、どれに合わせればいいのか分からない」
「“お客様に合わせて対応して”と言われても、どこまで自分で判断していいのか分からない」
という声もありました。
正直なところ、ビジネスマナー研修の内容を見直すべきなのか、それとも配属後の教育やOJTの進め方に問題があるのか、人事としても判断できずにいます。
こういった場合、どこから見直していけばよいのでしょうか。
一度ご相談させていただければと思い、ご連絡いたしました。
よろしくお願いいたします。

要約すると、

毎年、新入社員にビジネスマナー研修を実施しているのに、配属から数か月すると現場から同じ声が上がってくる。
研修を見直すべきなのか、それとも現場の教え方に問題があるのか、人事としても判断できずにいる。

そんな内容のご相談でした。

結論からお伝えすると、この会社で起きていたのは、研修の質の問題ではありませんでした。

研修で渡したはずのマナーが、現場で「別の基準」に上書きされていたことが原因でした。

ビジネスマナーが形だけで終わる。
この問題は多くの会社が同じ悩みを抱えていると思います。

しかし、今回の相談のように、原因を「教え方が足りないのでは?」と考えてしまうと、対策そのものを間違えてしまいます。

この記事では、実際にいただいたご相談をたどりながら、

  • マナー研修が形だけで終わる本当の原因
  • 現場で崩れない設計のつくり方
  • 中小企業でも実践できる具体策

まで、順番に整理していきます。


目次

「毎年やっているのに崩れる」──ある不動産会社からの相談

ご相談をくださったのは、不動産会社で人事・研修を担当されている方でした。

お話をうかがうほど、この悩みは特別なものではなく、多くの中小企業で起きている構造なのだと感じました。

まずは、どんな状況だったのかを共有させてください。


研修はきちんとやっている。それでも数か月で戻る

その会社では、毎年きちんと新入社員研修を実施していました。
電話応対、敬語、報連相、お客様対応。基本的な内容は、入社時に一通り押さえていたそうです。

ところが、配属から数か月すると、現場の店長や先輩社員から、こんな声が上がってきていました。

  • 電話対応がまだできていない
  • お客様から説明が分かりにくいとクレームがはいる
  • 報告や相談のタイミングが遅い
  • もう少し相手に合わせた対応をしてほしい

担当者の方も、手何もせずにただ見ていたわけではありませんでした。

フォロー研修を実施したり、ビジネスマナーをもう一度確認する機会を設けたりと、対応を重ねてこられました。

それでも、研修直後は改善したように見えて、しばらくするとまた同じ声が出てくる。
この繰り返しに、人事としてどう手を打てばいいのか分からずにいる、という状態でした。


新人本人に聞いて見えた、本当の問題

お問い合わせフォームからいただいたご相談の文面には、担当者の方が新人本人から聞き取った声も書かれていました。

  • 研修で習ったことと、現場で先輩から言われることが違う
  • 先輩によって言うことが違い、どれに合わせればいいのか分からない
  • “お客様に合わせて対応して”と言われても、どこまで自分で判断していいのか分からない

ここで注目したいのは、こうした「研修と現場のズレ」に関する声が出ている場合、問題が研修の中身そのものにあるとは限らないということです。

新人がマナーを覚えていないのであれば、研修内容や教え方を見直す必要があります。

しかし今回のように、「研修で習ったことと現場で言われることが違う」「人によって言うことが違う」という研修と現場のズレが出ている場合は、研修後の現場に原因がある可能性があります。

今回も、新人は研修で習ったマナーを忘れていたわけではありませんでした。

研修で一つの基準を教わったあと、現場では先輩ごとに違う基準を示されていたため、どれに合わせればいいのか分からなくなっていたのです。

その結果、場面ごとの判断に迷い、対応にばらつきが出る。
それが周囲から見ると、「研修をしたのにマナーが身についていない」ように見えてしまうのです。

では、なぜ研修で教えた基準が、現場に入ると揃わなくなってしまうのでしょうか。

次の章では、その構造をもう少し詳しく見ていきます。


崩れる原因は「研修の質」ではなく「基準が上書きされること」

マナーが崩れている様子を見ると、「研修で十分に身についていなかったのではないか」と考え、フォロー研修などを検討したくなるかもしれません。

もちろん、研修内容を見直すことが必要なケースもあります。
ただ、原因が研修の中身ではなく、配属後の現場にある場合、研修を追加するだけでは同じことが繰り返されてしまいます。

先ほど紹介した新人の3つの声を分解すると、今回どこに問題があったのかが見えてきます。


声①「習ったことと、現場で言われることが違う」=接続の断絶

例えば、研修で「電話は3コール以内に、名乗ってから用件を復唱する」と習ったとします。

ところが配属先では、先輩が忙しさのなかで、復唱せずに切っていたりする。

新人はここでこう考えます。

新人社員

研修では教わったけど、目の前の先輩がやっているから、実際は復唱しなくてもいいのか。

このように、多くの場合、新人が信じるのは現場の先輩です。

研修は数日で終わりますが、先輩とは毎日顔を合わせるからです。

研修と現場がつながっていないと、研修で教えた基準よりも、現場で日々目にするやり方のほうが優先されやすくなります。


声②「先輩によって言うことが違う」=基準の不在

さらに厄介なのは、現場のなかでも基準がそろっていない場合です。

A先輩は「お客様には丁寧すぎるくらいでいい」と言い、B先輩は「回りくどいから要点だけ話せ」と言う。
新人からすれば、どちらに合わせても、もう一方から注意される状態です。

わたし自身、広告代理店でデザイナーを始めたころに似た経験がありました。

先輩によって「まず3案つくる」「最初から1案に絞る」「ラフの段階で営業に見せる」など、やり方がそれぞれ違っていたのです。

どのやり方にも理由はありましたが、経験の浅いわたしには、どの場面でどれを選べばいいのか分かりませんでした。結果として、新しい案件が来るたびに「今回はどうしますか」と確認するようになりました。

考えていなかったわけではありません。判断するための基準がなかったのです。

これは新人の理解力だけの問題ではありません。

会社として「何を基準に判断するのか」が決まっていなければ、新人は自分で選びようがありません。
結果として、その場にいる先輩のやり方に合わせるしかなくなります。


声③「どこまで判断していいか分からない」=判断軸の不在

上司

“お客様に合わせて対応”してしてほしい。

この言葉は現場ではよく使われていると思います。
しかし、経験の浅い新人にとっては、判断に迷いやすい指示でもあります。

なぜなら、「どこまで自分で判断していいのか」「どこから先は先輩に確認するのか」という線引きが分からないからです。

しかし、「値引きの相談は必ず先輩に確認する」「案内する順番は自分で決めてよい」線引きがわかっていれば、新人も判断しやすくなります。

反対に、その線引きがないまま「お客様に合わせて」とだけ言われると、「これは自分で決めていいのだろうか」と迷い、そのたびに確認が必要になってしまいます。


3つの声が指しているのは、同じひとつの構造

  • 研修と現場で言うことが違う。
  • 先輩によってやり方が違う。
  • どこまで自分で判断していいのか分からない。

これらは、一見すると別々の悩みに見えますが、3つには共通していることがあります。

それは、研修で教えた基準と、現場で使われている基準がそろっていないことです。

研修では「こう対応しましょう」と教わっていても、配属後に先輩から違うやり方を教わったり、人によって判断が違ったりすれば、新人はどちらに合わせればいいのか分からなくなります。

前でもお伝えしましたが、毎日接するのは研修講師ではなく、現場の先輩です。
そのため、研修で教わったことよりも、目の前の先輩のやり方に合わせるようになることがあります。

その結果、研修直後はできていたマナーが、しばらくすると崩れたように見えることがあります。

そう考えると、見直す場所も変わってきます。

研修内容を増やすだけではなく、研修で教えた基準を現場でも使えるようにし、先輩ごとの判断の違いを整理することが必要です。

現場側の基準がそろっていなければ、フォロー研修を追加しても、同じような問題が繰り返される可能性があります。


マナーの本質は「相手の時間と感情を守ること」

ここまで、研修で教えたことと、現場での対応をそろえることについて見てきました。

ただ、そもそも「なぜこのマナーが必要なのか」を新人が理解できていなければ、どれだけルールを決めても、「言われたからやるもの」になってしまいます。

そこで一度、マナーの原点に戻ってみましょう。

ビジネスマナーとは何か。

ひとことで言えば、相手の時間と感情を守る行動です。

「この形が正しいから」ではなく、「この対応をすると、相手にどんな影響があるのか」で考えると、マナーの意味が見えやすくなります。


相手の「時間」を守るということ

仕事では、相手の時間を余計に使わせることが、そのまま負担につながります。

  • たとえば、電話に出るまで長く待たせる。
  • メールの要点が分からず、相手に何度も確認させる。
  • 資料が整理されておらず、打ち合わせが長引く。

どれも悪意はありません。

しかし、相手の時間を確実に奪っています。

逆に、相手の時間を守る対応ができるだけで、「この会社は信頼できる」という印象につながります。

先ほどの不動産会社の相談にあった「お客様への説明が分かりにくい」も、突き詰めれば、お客様の時間を余計に使わせているという問題です。


相手の「感情」を守るということ

露骨に機嫌を表情に出す人は別ですが、基本的に感情というのは目には見えません。
仕事の場ならなおさらです。

そんな見えないものなのに、信頼を大きく左右します。

  • 挨拶が小さい。
  • 目を見ずに名刺を渡す。
  • 面倒そうな声で電話に出る。

こうした些細な態度でも、相手に「歓迎されていない」と感じさせることがあります。

感情を守る行動は、相手に安心感を渡す行動です。

「もう少し相手に合わせた対応をしてほしい」という現場の声も、相手の感情まで気を配れているか、という指摘だと読み替えられます。


マナー違反は「信頼を削る行為」

マナー違反は、単なる失礼では終わりません。
相手の時間を奪い、不安を与え、不快にさせる。

この積み重ねが、少しずつ信頼を削っていきます。

だからこそマナーは、信頼を積み重ねる技術だと言えます。

ここまで腹落ちすれば、お辞儀の角度も名刺の順番も、ただの形ではなくなります。

すべては「相手をどう扱うか」に行き着きます。
そして、この土台を新人と共有したうえで、次は崩れない基準をどう設計するかに進みます。


形だけにしない設計──「基準をつなぐ」3ステップ

研修で教えたことが、現場のやり方に置き換わっていると分かれば、見直すべきところも見えてきます。

だからと言って、難しい制度をつくる必要はありません。
研修で教えたことを、現場でも同じように使える状態にするだけです。

ここでは、中小企業でも取り入れやすい3つのステップに整理します。


ステップ① ゴールを「行動」で決める

「理解する」「学ぶ」という目標が悪いわけではありません。
ただ、それだけでは、「何ができれば身についたとするのか」が人によって変わることがあります。

たとえば名刺交換は、「立つ」「名乗る」「名刺を差し出す」「受け取る」といった一連の流れがある程度決まっています。

普段の生活で同じ動作をすることも少ないため、研修で覚えた型とは別の「いつものやり方」が入り込みにくいマナーです。

一方、敬語は少し違います。

敬語は普段の会話と地続きなので、研修で正しい言い方を覚えていても、とっさの場面ではいつもの話し方が出てしまうことがあります。

わたしが働いていた会社でも、こうしたズレがありました。

メールでは研修で覚えた敬語を使えていても、電話になると、慌てたときに普段の言葉が出てしまうのです。

たとえば、落ち着いているときは「少々お待ちください。確認いたします」と言えていても、忙しくなると「ちょっと待ってください」と言って保留にしてしまう。

敬語を知らないわけではありません。
知識として分かっていることと、とっさの場面で使えることには違いがあります。

ここで研修のゴールが「敬語を学ぶ」だけだと、敬語の種類を説明できればいいのか、メールで正しく使えればいいのか、電話でも自然に使えるところまで求めるのかが分かりません。

そこで、

「敬語を学ぶ」
→「電話応対で、保留・確認・取り次ぎの場面に応じた敬語を使って応対できる」

と具体的にします。

こうしておけば、研修担当者だけでなく、新人本人や現場の先輩も、「何ができればOKなのか」を同じ基準で確認しやすくなります。


ステップ② 「なぜ必要か」を必ずセットで渡す

ステップ①で“行動のルール”を決めました。
しかし、これだけでは十分ではありません。

次は「なぜそうするのか」まで一緒に伝えます。

“行動のルール”を決めても、理由がないまま「こうしてください」とだけ教わると、新人は現場で、研修で教わったことと違うやり方を見たときに、どちらを選べばいいのか判断できません。

たとえば電話応対で「3コール以内に出ましょう」と教わりました。
しかし、忙しい先輩がそれを守っていなければ、「忙しいときは守らなくてもいいのかな?」と考えるかもしれません。

そこで、「なぜ3コール以内なのか」まで伝えます。

  • 長く呼び出すほど、相手を待たせることになる
  • 電話に出るまでの対応も、会社への印象につながる

こうした理由が分かっていれば、現場で違うやり方を見たときも、「先輩がどうしているか」だけではなく、「そもそも何のためのルールなのか」に戻って判断できます。

つまり、理由を伝える目的は、ルールを忘れにくくすることだけではありません。
状況が変わっても、新人が自分で判断できる基準を渡すことにあります。

わたしのおススメは、実際にあなたの現場で起きた失敗や、お客様から指摘を受けた場面などと一緒に伝えると、より新人自身が自分事と認識できて「なぜ必要なのか」もイメージしやすくなります。


ステップ③ 研修後に「基準を確認する場」をつくる

研修はスタート地点です。

学生の頃、テスト勉強をしてもテストが終われば忘れていく。

研修も終わった瞬間から忘れ始めますし、現場に基準がなければ、そこで上書きが起きます。
だから研修後に、基準を確認する場をつくります。

  • 1週間後の振り返り:やってみてどうだったか、できたこと・迷ったことを言葉にさせる
  • 上司からの一言:「今の電話対応よかったよ」の一言でも、行動は強化される
  • 簡単なチェックリスト:来客・電話・メールを自己点検させ、意識を向けさせる

特別な制度は要りません。
「確認される場」があるかどうかが分かれ目です。

そしてこの事例で最も大事なのが、次の一点です。
研修担当者と現場の先輩が、同じ基準を共有しているか。

どれだけ研修で丁寧に基準を渡しても、現場の先輩が別々のことを言えば、基準はその場で崩れます。

逆に「うちはここまでを新人の判断に任せ、ここからは先輩に確認させる」という線を研修と現場で握っておけば、新人はもう「誰に合わせればいいのか」で迷いません。

基準をつなぐというのは、研修と現場が同じ地図を持ち同じ方向に向かう事なんです。


中小企業で実践できる具体策5つ

具体策といっても、大きな予算も特別な制度も要りません。

むしろ中小企業は大企業と違い、意思決定が早く、すぐ試せる強みがあります。

ポイントはシンプル。

「形だけ」で終わらせない仕掛けを日常のなかに入れること

ここからは、今日から実践できる具体策を5つを紹介します。


① ロールプレイは「本番に近づける」

一つ目は、ロールプレイをできるだけ実際の仕事に近づけることです。

研修でよくあるのは、「では名刺交換をやってみましょう」と、相手も流れも分かった状態で練習する方法です。

もちろん、最初に型を覚えるためには必要です。
ただ、わたしはそこで終わると、現場で使えるかどうかまでは分からないと思っています。

実際の仕事では、相手がこちらの想定どおりに動いてくれるとは限りません。

名刺を準備する前に相手から差し出されることもあります。
電話なら、相手が早口だったり、名前を聞き取れなかったり、こちらが忙しいタイミングでかかってきたりします。

こうした場面で新人が迷うのは、型を知らないからとは限りません。
覚えた型から状況が少し外れたときに、どう判断すればいいのか分からなくなるからです。

だから、わたしはロールプレイでは、きれいに成功させることよりも、少し予定を崩した状況を入れることが大切だと考えています。

たとえば、

  • 実在する顧客を想定する
  • 実際に使っている資料を持たせる
  • 受付から退室まで一連の流れで行う
  • 相手から先に名刺を出してもらう
  • 電話なら、早口や聞き取りづらい話し方を入れる
  • 急いでいる相手を想定する

といった形です。

ここで見たいのは、「研修どおり完璧にできたか」だけではありません。

予定どおりにいかなかったときに、研修で教えた基準に戻って、自分で対応を選べるか。

わたしは、ここまで確認して初めて、ロールプレイが現場につながると考えています。


② 上司の態度をそろえる

どれだけ研修で基準を教えても、現場の上司や先輩が違う対応をしていれば、新人は迷います。

たとえば研修では「出社したら自分から挨拶する」「電話は早めに取る」と教わったのに、配属先では上司がほとんど挨拶をせず、電話が鳴っていても誰も取ろうとしない。

そんな状態が続けば、新人が「研修ではそう習ったけれど、実際の職場ではそこまでやらなくてもいいのかな」と考えても不思議ではありません。

ここでも起きているのは、これまで見てきた研修で教えたことと、現場で行われていることのズレです。

だから、マナー研修を新人だけのものにしないことが大切です。

  • 挨拶はどこまでそろえるのか。
  • 電話はどう取るのか。
  • お客様へのメールでは何を最低限守るのか。

こうした部分は、上司や先輩も含めて一度確認しておきます。

新人に「研修で習ったとおりにやって」と伝えるのであれば、現場で教える側も、その基準から大きく外れないようにする。

ここまでそろって初めて、新人も「研修だけのルールではなく、この会社で実際に使う基準なんだ」と理解しやすくなります。

ただし、ここで注意したいのは、上司や先輩に一方的に「研修と同じやり方をしてください」と求めないことです。

私自身の過去の経験や、話を聞いてきて感じたことは、現場には、それまでそのやり方で仕事をしてきた理由があります。

その現場の人の考えを無視して基準だけ変えようとすれば、「今まで問題なかったのに、なぜ変えるのか」と反発が出ても不思議ではありません。

そこで、まず伝えるのは「新人が研修と現場の違いに迷っている」という事実です。

そのうえで、すべてのやり方を統一するのではなく、「新人が判断に迷わないために、ここだけはそろえたい」という最低限の基準を決めます。

言い回しや仕事の進め方には個人差があっても構いません。
ただ、新人が「誰の言うことに従えばいいのか」で迷う部分だけは、現場側でもそろえておく。

新人に納得できる理由を伝えるのと同じように、教える側にも「なぜそろえる必要があるのか」を伝えることが必要です。


③ マナー違反を感情で叱らない

ミスが起きたとき、つい強い口調で注意したくなることはあります。

ただ、「なんでそんな対応をしたの?」「それじゃダメでしょ」と叱るだけでは、新人に残るのが「次は怒られないようにしよう」という意識だけになることがあります。

それでは、似たような場面が起きたときに、自分で判断できません。

大切なのは、何がよくなかったのかを具体的に伝えることです。

たとえば、

  • どの対応に問題があったのか
  • その対応によって、お客様にどんな負担や不安を与える可能性があるのか
  • 次に同じ場面が来たら、どう対応すればよいのか

ここまで伝えます。

たとえば電話で名乗るのを忘れたのであれば、「ちゃんと名前を名乗って」と注意するだけではなく、

上司

最初に会社名を名乗らないと、相手は本当に目的の会社につながったのか分からないし不安に感じさせてしまうよ。
だから、次からは電話を取ったら、まず会社名を伝えるようにしようね。

と、理由と次の行動までセットで伝える

心理学でも、「いつ・どの場面で・何をするか」を具体的に決めておくことで、行動につながりやすくなることが知られています。

マナー指導で大切なのは、叱ることそのものではありません。
次に同じ場面が来たとき、新人がどう動けばいいのかまで分かる状態にすることです。


④ 評価項目に入れる

研修で「こうしたマナーや行動を大切にしましょう」と伝えていても、その後まったく確認されなければ、研修のときだけ意識すればいいことに見えてしまうことがあります。

だから、研修で教えたことを、評価や面談のなかでも確認します。

たとえば、

  • 自分から挨拶できているか
  • 必要なタイミングで報告・相談ができているか
  • 相手が読みやすいメールを書けているか

といった項目です。

これらは、売上のように数字で測りやすいものではありません。
だからといって、細かく点数をつける必要もないと思います。

最近、電話応対で困ったことはないか
報告のタイミングで迷った場面はあったか

と面談で確認するだけでも、会社がその行動を大切にしていることは伝わります。

研修で教えて終わりにするのではなく、現場に戻ってからも同じことを見る。

そうすることで、新人にとっても「研修だけの話」ではなく、実際の仕事で求められていることだと分かりやすくなります。


⑤ 定期的に振り返る

研修後は、定期的に振り返る時間をつくります。

しかし、研修後の振り返り時間に関しては、難しい問題です。

実際に問合せの中で

上司

「仕事の時間を割いてまですることなの?」と社内で不満が出ているんです。

という報告も聞きます。

振り返りの為に、“新しい会議”“チェックシート”を増やしてしまうと、現場からすれば、「マナー研修のために仕事が増えるのか」と感じるのが自然だと思います。

結果、振り返りそのものが負担になってしまえば、続けるのが難しくなります。

そこで、私がおススメするのは、すでにある1on1や朝礼、月次面談のなかで数分だけ確認するようにすることです。

  • 最近、対応に迷った場面はあったか
  • そのとき、どう対応したか
  • 次に同じ場面が来たら、どうするか

全部を振り返る必要はありません。
その月に実際に起きた一つの迷いを取り上げるだけでも十分です。

たとえば、「急いでいるお客様から電話が来たときに、いつもの言葉遣いが出てしまった」という話があれば、「次はどう言うか」まで一緒に決めます。

わたしは、振り返りは新しい仕事を増やすためのものではなく、現場で起きた小さなズレを、そのままにしないための時間だと考えています。


そのまま使える|新人マナー定着チェックリスト

具体策を「意識」で終わらせないために、そのまま使えるチェックリストを用意しました。

月1回の振り返りや、上司の一言フィードバックの場面でお使いください。

新人が自己点検する項目

  • 電話は3コール以内に出て、名乗ってから用件を復唱できたか
  • お客様への説明で、要点を先に伝えられたか
  • 報告・相談を、後回しにせずその場で出せたか
  • 自分で判断してよい範囲と、確認すべき範囲を区別できたか

上司・研修担当者が確認する項目

  • 新人に渡した基準を、現場の先輩も同じ言葉で言えているか
  • 「お客様に合わせて」を、判断してよい線とセットで伝えているか
  • できた行動を、その場で一言で認められているか

自己点検の最後の項目と、確認側の項目が、この記事の主軸である「基準をそろえる」に直結しています。

ここがそろえば、研修で渡したマナーは現場で上書きされにくくなります。


よくある質問

ここまで読んで、「うちの場合はどうなのか」と感じている方もいるかもしれません。

規模や世代、あるいは相談者と同じ悩みについて、よくいただく質問を整理します。


Q. 研修を見直すべきか、現場のOJTを見直すべきか

これは、今回ご相談をくださった不動産会社の担当者の方と、まったく同じ問いです。

結論から言えば、どちらか一方ではありません。
見るべきは、研修と現場の「接続」です。

研修だけを厚くしても、現場で基準が上書きされれば元に戻ります。

逆に現場のOJTだけを直しても、そもそも研修で渡す基準があいまいなら、現場は何に合わせればいいのか分かりません。

見直す順番としては、

  • まず研修のゴールを行動で言語化
  • その基準を現場の先輩と共有
  • 最後に確認の場をつくる

研修と現場のどちらかを疑うのではなく、その間がつながっているかを見る。
ここが出発点になります。


Q. 何人規模から必要か

マナー研修が必要かどうかは、人数だけで決めるものではありません。

3人の会社でも、お客様と直接やり取りするのであれば、マナーについて一度きちんと考えておく必要があります。

むしろ私は、従業員が少ない会社ほど、マナーを軽く扱わない方がいいと考えています。

少人数の会社では、お客様と接する人も限られています。

電話に出た一人、メールを返した一人、打ち合わせを担当した一人の印象が、そのまま「この会社は信頼できそう」「少し不安だな」という会社全体の印象につながりやすいからです。

大きな会社のように、別の担当者や部署がフォローしてくれるとは限りません。
一人ひとりの対応が、会社の信用に占める割合が大きいとも言えます。

だから、判断するときに見るのは「社員が何人いるか」だけではありません。

お客様との接点がどれくらいあるか。
そして、一人の対応が会社の信用にどれくらい影響するか。

少人数だから研修は必要ないのではなく、少人数だからこそ、最低限そろえておく対応を決めておく意味があります。


Q. Z世代はマナーを嫌がるのか

Q. Z世代はマナー研修を嫌がるのか

「Z世代だからマナー研修を嫌がる」とひとくくりにはできません。

ただ、わたしの周りでも、「マナー研修にあまり意味を感じない」「正直、面倒だった」という若い世代の声を聞くことはあります。

そして、ここは無理に「理由を説明すれば、みんな前向きに取り組んでくれる」と考えなくてもいいと思っています。

マナー研修が好きではない人もいますし、必要性を説明しても、すぐにやる気が出るとは限りません。

大切なのは、マナーを好きになってもらうことではなく、仕事として必要な理由を理解したうえで、必要な場面ではできる状態にすることです。

たとえば、「正しい敬語だから使いましょう」だけではなく、

この言い方をすると、お客様にはこう聞こえる。
この確認を省くと、あとでこういう手間が発生する。

と、仕事への影響まで伝える。

それでも本人が「マナー研修って面倒だな」と思うことはあるでしょう。
それ自体を無理に変える必要はありません。

理由は、好き嫌いと、仕事としてできるかどうかは別だからです。

研修で目指すのは、全員をマナー好きにすることではありません。

「この会社では、お客様に対してここまではそろえよう」という最低限の基準を理解し、現場で実践できる状態をつくることだと、わたしは考えています。


ビジネスマナーを「文化」にするために

最後に整理します。

今回の不動産会社の相談で起きていたのは、研修の質の問題ではありませんでした。

研修で渡したマナーが、現場で「先輩ごとの基準」に上書きされていた。
これが、マナーが形だけで終わる本当の原因です。

新人はマナーを忘れていたのではありません。

習ったことと現場で言われることが違い、先輩によって言うことも違い、どこまで判断していいかも分からない。
そのなかで、いちばん近くにある基準に合わせるしかなかっただけです。

だから、直す場所も変わります。

  • ゴールを「行動」で決めて、基準をあいまいにしない
  • 「なぜ必要か」をセットで渡して、簡単に上書きされないようにする
  • 研修後に確認の場をつくり、研修と現場で同じ基準を共有する

マナーを文化にするとは、立派な制度をつくることではありません。

研修で渡した基準が、現場までまっすぐつながっている状態をつくることです。

その接続さえできれば、マナーは数か月で崩れる作法ではなく、会社に積み上がっていく信頼の技術になります。

マナー研修を見直すとき、中身を厚くする前に、一度この問いに戻ってみてください。
「研修で渡した基準は、現場までつながっているだろうか」。ここが、すべての出発点になります。


研修内容を、一度整理してみませんか?

今回のように、「研修を見直すべきか、現場の教え方を見直すべきか」で迷うケースは、とても多いです。

  • 何を教えるか
  • どこまでを新人の判断に任せるか
  • 研修と現場で、どう基準をそろえるか

ここがあいまいなまま進んでしまい、「伝えたつもりだった」「現場で行動が変わらなかった」という声もよくうかがいます。

まずは、今の研修内容や現場の悩みを言葉にして整理するところからで大丈夫です。まだ具体的に決まっていなくても問題ありません。

「この研修、どう組み立てればいいんだろう」。そう感じたタイミングが、見直しを始めるいちばん良いタイミングです。

形式
オンライン

所要時間
30分

費用
無料

まだ具体的に決まっていなくても構いません。
「うちの場合はどうだろう」から、ご相談ください。


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この記事を書いた人

中小企業の研修設計・研修動画制作を専門としています。
研修担当者の「何を教えればいいかわからない」という悩みから一緒に整理し、現場で使える研修づくりをサポートしています。

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