研修担当者の仕事の進め方|その課題、本当に研修で解決できますか?

目次

【結論】研修担当者の仕事は、研修をつくることではありません

以前、営業会社に在籍していたころ、外部講師を招いた研修を受けたことがあります。

内容は良いものでした。

話も分かりやすく、資料も丁寧に作り込まれていました。
終わったあと、私自身も「なるほど、明日から使ってみよう」と思いながら会場を出た記憶があります。

ところが、翌週の職場では、研修で習ったやり方を使っている人が誰もいませんでした。
私も使っていませんでした。

理由は単純です。

研修で習ったやり方が、当時の営業スタイルと噛み合っていなかった

からです。

研修では、お客様の話を先に聞き、課題を引き出してから提案する手順を教わりました。

しかし当時の会社には、1日に何件回ったかを毎日報告するルールがありました。
件数が評価の一部になっていて、社員全体が「基本的な進め方で、とにかく数を打つ」というスタイルで動いていたわけです。

研修で習った手順を取り入れると、1件あたりの時間がどうしても伸びます。

当然、件数は落ちます。

とはいえ、減るのは1日あたり数件です。
契約率さえ上がれば、上司も納得したはずです。

しかし、教わったばかりの進め方で、数日のうちに契約率が上がるほど簡単な話ではありません。

私を含めた数人は、お客様の反応に手ごたえを感じていたため、しばらく続けるつもりでいました。

ところが、上司から

そんなに時間をかけていたら数字が届かないぞ!

と言われます。

注意されるくらいならやめておこう。
そういう気持ちが勝ち、数日のうちに全員が元のスタイルに戻りました。

つまり、研修で教わった行動を取ると、その日の報告数字が悪くなる仕組みになっていたわけです。

報告数字が下がると分かっていて、その行動を選ぶ人はいません。

それどころか、同僚との酒の席では「なら最初から研修なんて入れるなよ!」という声も出ていました。
研修が、会社への不満の材料にまでなっていたわけです。

あの研修が失敗した原因は、研修の中身ではありませんでした。

研修の外側にありました。

研修担当者の仕事は、研修をつくって実施することだと思われがちです。

しかし本当に担当者が担っているのは、現場の行動が変わる条件を整えることです。

そして条件を整えるためには、「この課題は、そもそも研修では解決できない」と判断することも必要になります。

この記事では、研修担当者が握るべき判断を3つに整理してお伝えします。

  • 判断①:この課題は、そもそも研修で解決できるか
  • 判断②:何ができるようになれば、この研修は成功か
  • 判断③:現場に戻ったあと、その行動は続くか

初めて研修を任された方でも、順番に読み進めれば、明日から何を考えればよいかが見えるように構成しています。


① なぜ「研修をつくること」が仕事だと思ってしまうのか

研修担当者になった方の多くが、最初に資料作成や講師の手配から手をつけます。

決して間違った行動ではありません。
しかし、そこから始めてしまう背景には、担当者本人の問題ではない構造的な理由があります。


依頼が、最初から「実施」の形で降りてくる

研修担当者に仕事が回ってくるとき、依頼の言葉はたいてい次のような形をしています。

  • 新人向けの研修、なにか組んでおいて
  • 最近売り上げが伸びてないから、来月あたりやってほしい
  • 去年もやったし、今年もお願い

いずれの依頼にも共通しているのは、研修を実施することが前提になっている点です。

依頼の時点で「研修をやる」と決まっているため、担当者に残された仕事は、内容を決めて、日程を押さえて、当日を運営することだけに見えます。

しかし、依頼した側も、何が課題なのかを整理できていないまま口にしていることが少なくありません。

ミスが多いという事実はつかんでいても、なぜミスが起きているのかまでは分解されていない状態です。


準備の作業量が多く、考える時間が埋まってしまう

研修の準備には、目に見える作業が大量に発生します。

資料を作り、日程を調整し、会場を押さえ、案内を送り、当日の進行を組む。
ひとつひとつに時間がかかり、締め切りもあります。

作業が多いこと自体は問題ではありません。

問題は、作業に追われている間は、課題そのものを考える時間が取れなくなることです。

結果として、「何のためにこの研修をやるのか」を整理しないまま当日を迎えることになります。

準備は完璧なのに、終わってみると現場が何も変わらない。

そうした研修が生まれる背景には、この時間配分の偏りがあります。


実施したかどうかは記録に残るが、行動が変わったかは残らない

もうひとつ、担当者を実施側に引き寄せる理由があります。

研修を実施したという事実は、日付も参加人数も記録に残ります。
上司に報告もできます。

一方で、受講者の行動が変わったかどうかは、意識して測らないかぎり記録に残りません。

誰も確認しないため、成果として扱われにくいのが実情です。

評価されやすいものに力が向くのは、担当者として自然な反応です。
だからこそ、意識して「行動が変わったか」を見に行かないかぎり、仕事は実施することに寄っていきます。


出発点を「実施」から「行動」に置き換える

ここまでお伝えした3つの理由は、いずれも担当者の努力不足が原因ではありません。
仕組みとしてそうなっている、というだけです。

だからこそ、担当者側で意識的に出発点をずらす必要があります。

  • 実施を出発点にすると → 何を教えるか、から考え始めます
  • 行動を出発点にすると → 現場で何が起きているか、から考え始めます

出発点が変わると、最初に手をつける作業も変わります。
資料作成ではなく、現場への聞き取りが先になります。

そして現場を見に行くと、研修では解決できない課題が混ざっていることに気づきます。

次の章では、その切り分け方をお伝えします。


② 研修担当者が本当に扱っているのは「行動が変わらない理由」

現場で行動が変わらないとき、原因はひとつではありません。

見た目は同じ「できていない」状態でも、中身はまったく違うことが起きています。
そして中身が違えば、打つ手も変わります。

研修担当者が最初に身につけたいのは、行動が変わらない理由を切り分ける視点です。


行動が変わらない理由は、3つに分かれます

現場で起きている「できていない」は、次の3つに整理できます。

① 知らない

そもそも、どうすればよいのかを教わっていない状態です。

② できない

やり方は知っているものの、実際にやろうとすると手が止まる状態です。

③ やらない

やり方も分かり、やろうと思えばできるにもかかわらず、選ばれていない状態です。

上司や現場から「新人ができていない」という声が上がったとき、多くの場合、3つは区別されないまま一括りで語られます。

しかし、必要な対応はそれぞれ異なります。


①「知らない」は、情報が届いていない状態

これは最も分かりやすい種類です。

たとえば、次のような場面が該当します。

  • 見積書を作る手順を、誰からも教わっていない
  • クレームを受けたときに、どこまで自分で判断してよいのかを聞いていない
  • 社内システムに、そもそも入力する画面があることを知らない

これらは本人に落ち度はありません。
情報が渡されていないだけです。

この種類は、伝えれば解決します。

研修が最も効きやすい領域であり、マニュアルの整備だけで済む場合もあります。

見分け方は単純で、本人に「どうすればよいと思いますか」と聞いたときに、答えが出てこなければ「知らない」に該当します。


②「できない」は、知っているのに手が止まる状態

やり方は説明できるものの、実際の場面になると動けない状態です。

  • 報告の型は理解しているが、いざ上司の前に立つと言葉が出てこない
  • 電話の受け答えは覚えたが、相手の話す速度についていけない
  • 優先順位の考え方は分かるが、目の前に3つ並ぶと判断できない

原因はの多くは、練習の量が足りていないことにあります。

「頭で理解した段階」と、「体が動く段階」の間には距離があります。

この種類には、説明を増やしても効果が出ません。

必要なのは、実際にやってみる時間です。
ロールプレイや、上司が横で見ながら一度やらせる場面が有効になります。

見分け方は、「やり方を説明してみてください」と聞いたときに答えられるかどうかです。

説明できるのに現場でできていなければ、「できない」に該当します。


③「やらない」は、できるのに選ばれていない状態

3つのなかで最も見落とされやすく、そして最も多い種類です。

本人はやり方を知っていて、実際にやることもできます。
それでも、やっていません。

冒頭でお伝えした営業会社の話が、まさに該当します。

私も同僚も、研修で教わった進め方を理解していましたし、実際に一度は使いました。

それでもやめました。

やると報告数字が下がり、上司から注意されるからです。

現場では、次のような形で現れます。

  • 報告すると仕事が増えるため、報告しない
  • 質問すると「そんなことも分からないのか」と言われるため、質問しない
  • 手順どおりにやると時間内に終わらないため、省略する
  • 前任者から「ここは飛ばしていい」と引き継がれている

これらは、もちろん本人が怠けている場合もあります。

しかし、本人が怠けているわけでなく「やらないほうが合理的な状況に置かれている」というパターンもあると理解しておかなければいけません。

見分け方は、「やろうと思えばできますか」と聞くことです。

できると答えたうえでやっていない場合、必ず理由があります。

そして理由は、本人ではなく環境の側にあります。


研修で解決できるのは、「知らない」と「できない」だけ

3つを並べると、研修の守備範囲がはっきりします。

種類状態有効な打ち手
知らない情報が届いていない研修・マニュアル整備
できない練習量が足りない研修(実技・ロールプレイ)・OJT
やらない環境が行動を妨げている評価制度・業務量・上司の対応の見直し

「知らない」と「できない」には、研修が効きます。

しかし「やらない」には、研修はほとんど効きません。

知っている人に、もう一度教えても意味がないためです。

むしろ、営業会社の例のように「なら最初から研修なんて入れるな」という不満を生みます。

「やらない」に必要なのは、やらないほうが得になっている状況を変えることです。

評価の対象を変える、業務量を調整する、上司の反応を変える。いずれも研修の外側にあります。


担当者の仕事は、3つを切り分けて渡すこと

ここで誤解を招かないようにお伝えしますが、「やらない」は研修担当者が解決できない、という意味ではありません。

担当者が担うのは、どの種類の問題なのかを見極め、必要な相手に渡すことです。

  • 「知らない」「できない」であれば、研修として設計します
  • 「やらない」であれば、権限を持つ人へ事実として伝えます

「研修では解決できません」と伝えるのは、仕事を放棄することではありません。

むしろ、効果の出ない研修を実施して現場の時間を奪うことのほうが、担当者としては損失が大きくなります。

次の章では、実際に3つを切り分けるための具体的な進め方をお伝えします。


③ 判断1|この課題は、そもそも研修で解決できるか

研修担当者が最初に握る判断は、目の前の課題が研修で解決できるものかどうかです。

前章でお伝えした3つの種類に振り分ける作業になります。

順番に進めれば、経験が浅くても判断できます。


まず、現場で起きている「事実」だけを集める

振り分けの前に必要なのは、現場で何が起きているかを、事実の形で書き出すことです。

多くの場合、担当者に届く情報は、次のような言葉になっています。

  • 新人の覚えが悪い
  • コミュニケーションが取れていない
  • 主体性が足りない

いずれも、そのままでは振り分けられません。
何が起きているのかが含まれていないためです。

そこで、次のように書き換えます。

  • 新人の覚えが悪い
    → 見積書の作成手順を、3回教えても同じ箇所で止まる
  • コミュニケーションが取れていない →
    不明点があっても質問せず、自己判断で作業を進めている
  • 主体性が足りない →
    作業が終わったあと、次の指示を待って手が空いている

書き換えると、判断できる形に変わります。

事実の集め方については、詳しい手順を別の記事にまとめています。
あわせてお読みください。


集めた事実を、3つに振り分ける

書き出した事実を、ひとつずつ振り分けていきます。

判断の基準は、本人が「知っているか」「できるか」の2点だけです。

知っているかできるか種類担当者の動き
知らない―知らない研修またはマニュアルで伝える
知っているできないできない練習の場をつくる
知っているできるやらない妨げている要因を特定し、権限を持つ人へ渡す

ここで注意したいのは、ひとつの課題が2つ以上の種類にまたがる場合があることです。

たとえば「不明点があっても質問しない」という事実には、次の両方が混ざっている可能性があります。

  • 誰に、どのタイミングで聞けばよいのかを教わっていない(①知らない)
  • 聞くと機嫌が悪くなる先輩がいるため、聞かなくなっている(③やらない)

混ざっている場合は、無理にひとつへ寄せる必要はありません。

研修で扱う部分と、環境を変える必要がある部分に分けて記録します。


振り分けに迷ったときは、2つの質問で確認します

書き出した事実だけでは判断がつかない場合、本人に直接聞くのが最も早い方法です。

質問は、次の2つで足ります。

この場面では、どうするのが良いと思いますか?

答えが出てこない、または内容がずれていれば「①知らない」です。

やろうと思えば、できそうですか?

できると答えたにもかかわらず現場でやっていなければ、「③やらない」に該当します。

ただし、質問「やろうと思えば、できそうですか?」は聞き方に注意が必要です。

上司や担当者から正面から聞かれると、多くの方は「できます」としか答えられません。

そのため、続けて次のように聞きます。

やりにくいと感じる場面は、どんなときですか

やらない理由の多くは、この質問で出てきます。

時間が足りない、聞く相手がいない、やると別の作業が増える、といった環境側の事情が語られます。

聞き取りの詳しい進め方は、別の記事で解説しています。


「研修では解決できない」と判断したときの伝え方

振り分けの結果、「知っている」に該当する課題が出てきた場合、依頼者へ戻す必要があります。

ここが、担当者にとって最も気の重い場面です。
研修を頼まれたのに「研修では解決しません」と伝えることになるためです。

伝え方によって、受け取られ方が大きく変わります。


避けたい伝え方

調べたところ、これは研修では解決できない課題でした

事実としては正しいのですが、依頼を断っているように聞こえます。
依頼者からは、担当者が仕事から逃げたように見えます。


おすすめの伝え方

「新人3名に確認したところ、報告の仕方は全員が説明できました。
やらない理由を聞くと、報告すると差し戻しが増えて残業になる、という話が出ています。
研修で報告の仕方をもう一度教えても、同じ状態が続く可能性が高いと考えています。
そのため、まず差し戻しの運用を見直していただき、そのうえで研修が必要な部分があれば設計します。」

この伝え方には3つの要素が入っています。

  • 事実を先に出す(誰に聞いて、何が分かったか)
  • 研修を実施した場合に何が起きるかを伝える
  • 担当者として次に何をするかを示す

断っているのではなく、順番を提案している形になります。
この形であれば、依頼者も受け取りやすくなります。


振り分けが終わると、研修の対象が決まります

ここまでの作業を終えると、手元には2種類の情報が残ります。

  • 研修で扱う課題(①と②に該当するもの)
  • 研修の外側へ渡す課題(③に該当するもの)

研修で扱う課題だけが、次の設計に進みます。

多くの場合、依頼された時点よりも対象は絞られています。
しかし、絞られていることは問題ではありません。
効果が出る範囲だけが残っている、という状態です。

次の章では、絞り込んだ課題をもとに、研修のゴールをどう決めるかをお伝えします。


④ 判断2|何ができるようになれば、この研修は成功か

振り分けが終わり、研修で扱う課題が決まったら、次に握るのはゴールの判断です。

ここで決めるのは、研修の中身ではありません。研修が終わったあと、現場で何が起きていれば成功と言えるのかという基準です。

基準が先に決まっていないと、内容はいくらでも増えていきます。


ゴールは「知っている状態」ではなく「やっている状態」で書く

研修のゴールを書くとき、多くの場合、次のような言葉になります。

  • 報連相の重要性を理解する
  • 電話応対の基本を身につける
  • 優先順位の考え方を学ぶ

いずれも、達成できたかどうかを確認できません。
なぜなら、理解したかどうかは外からは見えないためです。

そこで、現場で観察できる行動に書き換えます。

書き換え前書き換え後
報連相の重要性を理解する作業が予定より30分遅れた時点で、上司に一報を入れている
電話応対の基本を身につける受電時に会社名と自分の名前を名乗っている
優先順位の考え方を学ぶ朝礼後に、その日の作業を締め切り順に並べ替えている

このように書き換えたあとの文であれば、上司が現場で確認できます。

担当者は研修から2週間後に、やっているかどうかを見に行けば済みます。

前章で振り分けた事実と、ここで書くゴールは、必ず対になります。

「見積書の作成手順が3回教えても止まる」という事実に対しては、「見積書を、手順書を見ながら1人で作成できる」がゴールになります。


ゴールは、1回の研修につき3つまでに絞る

ゴールを書き出すと、たいてい5つも6つも出てきます。

しかし、半日から1日の研修で身につく行動は多くありません。

教える側は3つ伝えたつもりでも、受講者が持ち帰れるのは実際には1つか2つです。

研修内容を絞るときの基準は、次の2点です。

基準①:現場でつまずいている頻度が高いか

週に何度も起きている課題を優先します。
年に数回しか発生しない場面は、研修ではなく手順書で足ります。

基準②:その行動ができると、他の行動も連鎖して変わるか

たとえば「早めに一報を入れる」という行動が定着すると、差し戻しが減り、確認の手間も減ります。1つの行動が複数の問題に効く場合、優先度が上がります。

絞りきれない場合は、依頼者に選んでもらう形も有効です。

今回の研修で確実に受講者が持ち帰れるのは3つまでだと考えています。
挙げた5つのうち、現場で最も困っているものから3つを選んでいただけますか?

このように、担当者が1人で抱え込むより、依頼者と合意したほう、研修後の評価もそろいます。


対象者は「役職」ではなく「つまずいている場面」で決める

ゴールが決まったら、誰に向けた研修かを決めます。

多くの会社では、新人向け、中堅向け、管理職向けという形で区切られています。
しかし、この区切り方だけでは対象が絞れません。

同じ新人でも、つまずいている場面は人によって違うためです。

そこで、次のように考えます。

  • ×:入社1年目の社員 20名
  • ○:見積書の作成を、まだ1人で完了できていない社員 8名

対象を場面で絞ことで、扱う事例も具体的になります。

20名のうち、すでにできている12名にとっては不要な時間だった、という事態も防げます。

ただし、会社の事情で全員参加が決まっている場合もあります。

そのときは、できている社員に「教える側」として参加してもらう形が有効です。

同じ時間を、別の目的で使えます。


形式は、ゴールの種類から自動的に決まります

ゴールと対象者が決まると、形式を選ぶ段階に入ります。

ここで担当者が握る判断は、「知らない」と「できない」のどちらに該当するかという1点だけです。

  • 「知らない」 に対しては、伝える形式で足ります。説明中心の研修、動画、手順書のいずれでも成立します
  • 「できない」 に対しては、やってみる時間が必要です。説明だけでは行動が変わりません

②に該当する課題に、説明中心の研修を当ててしまう失敗は、よく起きます。

1日かけて丁寧に説明したにもかかわらず、現場で手が止まったままになる場合、形式の選択を見直す必要があります。

形式ごとの特徴や選び方については、別の記事で詳しく解説しています。

カリキュラムの組み立て方についても、手順をまとめた記事があります。



当日、必要なのは「受講者の理解度を見る人」です

ゴールと形式が決まれば、あとは実施に向けた準備に入ります。

ここで1点だけ、当日の役割分担についてお伝えします。

研修当日、担当者の意識は時間管理や機材操作に向きがちです。
しかし、研修の成果を左右するのは、別の役割です。

それは、受講者が理解できているかどうかを、話している最中に察知する役割です。

判断の材料は、受講者の様子に出ています。

  • 手が止まっている
  • 隣の人と顔を見合わせている
  • メモを取る手が急に止まった

担当者がこうした様子に気づけるかどうかで後半の進め方が変わります。

そして、理解度を見る役割を誰が担うかは、講師が誰なのかによって変わります。

外部講師を招く場合

外部講師を招く場合、担当者が役割を担います。

講師は、自分の説明が伝わっているかどうかを、正面からは判断しにくい立場にあります。

一方で担当者は、受講者と同じ会社の人間であり、普段の様子も知っています。

いつもより反応が薄い、といった変化に気づけるのは担当者だけです。

担当者は、気づいた内容を休憩時間に講師へ伝えます、休憩時間に講師へ次のように伝えます。

先ほどの専門用語の部分で、数名の手が止まっていました。
次の場面で、もう一度触れていただけますか?

このように担当者が伝えるだけで、後半の内容が変わります。


社内の別の人が講師を務める場合

社内講師も担当者同様に受講者を知っているため、外部講師を招く場合よりは気づきやすい状態です。

ただし、講師は話すことに集中しているため、視野は狭くなります。
担当者が後方から全体を見て、休憩時間に共有する形は変わりません。


担当者自身が講師を務める場合

担当者自信が講師を務める。

これは最も難しいパターンです。

なぜなら、担当者は、話す役割と見る役割を、1人で兼ねることになるからです。

話している最中に全員の様子を観察するのは、現実的ではありません。

そこで、担当者は見るための時間を進行にあらかじめ組み込みます。

  • 15分ごとに1分間、手を止めて書いてもらう時間を入れる
  • 受講者が書いている間に、会場内を歩いて手元を見る
  • 書けていない人が3割を超えていたら、その場でもう一度説明する

「分からない人はいますか」と全体に問いかける形は、ほとんど機能しません。

手を挙げられる方は少ないためです。

しかし、書いてもらえば、理解できているかどうかが手元に出ます。

そして、もう1つの方法として当日だけ別の社員に同席を依頼し、後方から様子を見てもらう形もあります。

研修後に「どのあたりで反応が変わったか」を聞くだけで、次回の改善材料になります。

講師との事前共有については、別の記事にまとめています。


ゴールが決まると、研修後に何を見ればよいかも決まる

ここまでで、次の3点が決まりました。

  • 研修後に、現場で何が起きていれば成功か(ゴール)
  • 誰が対象か(つまずいている場面で絞った対象者)
  • どの形式で行うか(①か②かで選んだ形式)

そして、ゴールを行動の形で書いてあれば、研修後に何を確認すればよいかも、すでに決まっています。

しかし、行動が現場で続くかどうかは、また別の問題です。

研修室では できていたことが、職場に戻ると消えていく。
冒頭でお伝えした営業会社の例が、まさにその状態でした。

次の章では、行動を続けるための条件についてお伝えします。


⑤ 判断3|現場に戻ったあと、その行動は続くか

研修が終わり、受講者が現場に戻ります。

担当者にとって、ここからが本番です。

研修室でできていた行動が、職場で続くかどうかが決まる期間だからです。

そして、行動が消えていく理由は、受講者の意欲とは関係のないところにあります。


行動が消えるのは、意欲の問題ではない

研修直後、多くの受講者は前向きな状態にあります。
冒頭でお伝えした営業会社の研修でも、私を含めた数人は続けるつもりでいました。

それでも、数日でやめました。

理由は、やらないほうが得になる環境に戻ったからです。

行動を続けると報告数字が下がり、上司から注意される。
その状況で、意欲だけで続けられる方はいません。

つまり、研修後に消えていく行動の多くは、「できるのに、やらない」という状態へ移っています。

研修によって「知らない」「できない」は解消されました。

それでも、環境が元のままであれば、現場では選ばれません。

担当者が研修後に見るべきは、受講者本人ではなく、受講者が戻った環境の側です。


上司が知らないと、行動は続かない

環境のなかで最も影響が大きいのは、直属の上司です。

研修で何を教わったかを上司が知らない場合、次のような場面が起こります。

  • 受講者が習ったとおりに報告したところ、上司から「そんな細かい報告はいらない」と言われる
  • 手順どおりに進めたところ、「時間がかかりすぎだ」と指摘される
  • 質問したところ、「自分で考えろ」と返される

いずれも、上司に悪意はありません。
研修で何を求めたのかを知らないだけです。

そして受講者から見れば、研修で言われたことと、上司から言われることが食い違っている状態になります。

どちらに従うかと言えば、当然、目の前の上司です。

だからこそ、担当者は研修内容を上司へ研修内容を渡す必要があります。

渡す内容は、次の3点だけで足ります。

  1. 今回の研修で、何ができるようになることを目指したか(ゴール)
  2. 現場で、どんな行動が増えるはずか
  3. その行動が出たときに、どう反応してほしいか

3点目が重要です。
上司が反応しなければ、行動は続きません。

上司への伝え方としては次になります。

「今回、作業が30分遅れた時点で一報を入れる形を練習しました。しばらくは報告が増えると思います。
増えている間は『助かった』と一言返していただけますか。
報告して嫌な顔をされると、翌週には元に戻ります」

ここまで具体的に渡すと、上司も動きやすくなります。


研修前に、上司へ渡しておく方法もあり

上司への共有は、研修後よりも研修前のほうが効果的な場合があります。

研修の設計段階で、課題を3つに振り分ける作業を終えているはずです。
その時点で、上司には次の内容を伝えられます。

  • 現場で何が起きているか(集めた事実)
  • 今回の研修で、どこまでを扱うか
  • 研修では解決できない部分として、何が残るか

3点目を先に伝えておくと、研修後に「やったのに変わらない」という評価が出にくくなります。

担当者にとっても、動きやすい状況をつくれます。


確認するのは、2週間後

研修から時間が経つほど、行動は元に戻ります。
逆に言えば、戻りきる前に一度確認すれば、立て直せるということ。

確認の時期は、研修から2週間後を目安にします。

なぜなら1週間では、まだ研修の記憶が残っており、意欲だけで続いている場合があります。

1か月経つと、すでに元の状態に戻っており、立て直しに手間がかかります。

だから2週間というのはちょうどいいのです。

確認する内容は、研修を設計した時点で決めたゴールです。
行動の形で書いてあれば、そのまま確認項目になります。

  • 作業が30分遅れた時点で、上司に一報を入れているか
  • 受電時に、会社名と自分の名前を名乗っているか
  • 朝礼後に、その日の作業を締め切り順に並べ替えているか

確認の相手は、受講者本人ではなく上司です。
本人に聞くと、「やっています」という答えになりやすいためです。


やっていなかった場合、原因を3つに戻して考える

やっていなかった場合、もう一度「知らない・できない・やらない」で見ます

確認の結果、行動が出ていなかった場合、担当者は原因を切り分け直します。

状態原因担当者の動き
やり方を忘れている知らない状態へ戻っている手順書を配る、短いフォローを送る
覚えているが、手が止まるできない状態のまま練習の機会を追加する
できるが、やっていないやらない状態に入っている環境を確認し、権限を持つ人へ渡す

ここでも、最も多いのは「やらない」です。

そして「やらない」であれば、研修をもう一度実施しても解決しません。
受講者に「なぜやらないのか」と問い詰めることも、逆効果になります。

担当者が聞くべきは、次の1点です。

やりにくいと感じる場面は、どんなときですか?

この答えのなかに、環境側の事情が入っています。

時間が足りない、上司の反応が悪い、別の作業が増える。

いずれも、受講者本人には変えられない要因です。


フォローの仕組みは、担当者の負担にならない形にする

研修後のフォローは、続けられる形でなければ意味がありません。

担当者が抱えている研修は、1本だけではないはずです。
すべての研修に手厚いフォローを設計すると、次の研修の準備が回らなくなります。

最小限の形は、次の3つです。

  • 研修終了時に、受講者が「明日やること」を1つだけ書く
  • 上司へ、ゴールと期待する反応を渡す
  • 2週間後に、上司へ1つだけ確認する

3つとも、1本の研修につき30分もかかりません。


行動が続く条件は、研修の外側にある

ここまでお伝えしたとおり、研修後に行動が続くかどうかは、次の3点で決まります。

  • 上司が、何を求められているかを知っているか
  • 行動が出たときに、現場が肯定的に反応するか
  • やりにくくなる要因が、環境側に残っていないか

いずれも、研修の中身ではありません。
研修の外側にあります。

冒頭の営業会社の研修に足りなかったのも、まさにここでした。

研修の質は高かったにもかかわらず、報告ルールが変わらなかったため、行動は続きませんでした。

次の章では、ここまでの3つの判断を、1年の流れのなかで見ていきます。


⑥ 1年の流れで見ると、担当者の仕事は前倒しで決まっている

ここまで、研修担当者が握る3つの判断をお伝えしてきました。

3つの判断は、研修が決まってから考えるものだと思われがちです。
しかし実際には、年度のどの時期にいるかによって、担当者が打てる手は大きく変わります。

とくに「やらない」への対応は、時期を外すと1年先送りになります。


「やらない」への対応だけ、動かせる時期が限られている

「知らない」「できない」への対応は、必要になった時点で着手できます。
研修を組み、練習の場をつくれば済むためです。

一方、「やらない」への対応は、担当者だけでは完結しません。

評価の対象を変える、業務量を調整する、報告のルールを見直す。

いずれも、決定権を持つ人の判断が必要になります。

そして、会社の制度やルールが変わる時期は、たいてい決まっています。

  • 評価制度の見直し … 年度の切り替え前
  • 業務量や人員の配置 … 期の切り替え時
  • 予算を伴う施策 … 予算編成の時期

冒頭でお伝えした営業会社の例で言えば、報告ルールの見直しがまさに該当します。

研修を実施した直後に「明日から報告のやり方を変えてください」と申し出ても、まず通りません。

つまり担当者は、現場で何が起きているかを、制度が動く時期より前につかんでおく必要があります。


年度の前半で判断が終わっていると、後半が楽になります

1年の流れを大きく分けると、担当者の動きは次のようになります。

時期担当者の中心的な動き
年度前半現場から事実を集め、3つに振り分ける
年度前半の終わり「やらない」に該当する内容を、決定権を持つ人へ渡す
年度後半研修で扱う課題について、ゴールを決めて設計・実施する
年度末行動が続いているかを確認し、翌年度の判断材料にする

順番として重要なのは、振り分けが設計より先にあるという点です。

多くの会社では、研修の計画を立てる時期に、テーマから先に決めています。
しかしテーマから決めると、現場で起きている事実を確認しないまま内容が固まります。

結果として、「やらない」に該当する課題へ研修を当ててしまいます。

現場から事実を集める作業を先に置くだけで、順序は正しくなります。


年度の途中から担当になった場合

年度の途中で担当を引き継ぐ場合もあります。

その場合、無理に1年分をそろえる必要はありません。
まず、直近で依頼が来ている研修について、3つの振り分けだけを済ませます。

振り分けの過程で「やらない」に該当する課題が見つかれば、記録として残しておきます。

制度が動く時期が来たときに、そのまま提案の材料になります。

担当者が1年目に整えるのは、判断の順序です。

年間の予定を完璧に組むことではありません。


【まとめ】研修担当者の仕事は、「研修をやらない」と判断することも含みます

ここまでお伝えした3つの判断は、いずれも研修の中身を見るものではありませんでした。

  • 判断①:現場で起きていることが、研修で解決できる課題かどうか
  • 判断②:研修後に、現場で何が起きていれば成功と言えるか
  • 判断③:現場に戻ったあと、その行動が続く環境になっているか

見ている先は、すべて研修の外側です。

冒頭でお伝えした営業会社の研修は、中身そのものは良いものでした。
それでも行動は変わりませんでした。件数を毎日報告するルールが、そのまま残っていたからです。

研修の質を上げても、外側が変わらなければ、行動は続きません。
そして外側を整えられる立場にいるのは、講師ではなく研修担当者だけです。

だからこそ、「これは研修では解決できません」と言えることが、担当者の強さになります。

効果の出ない研修を実施すると、受講者の時間も費用も失われます。

そのうえ「研修をやっても意味がない」という空気が現場に残り、本当に必要な研修まで通らなくなります。

研修担当者は、研修をつくる人ではありません。現場の行動が変わる条件を整える人です。


その課題、本当に研修で解決できますか

研修の依頼を受けたものの、次のように感じている方は少なくありません。

  • 現場から「研修をやってほしい」と言われたが、それで解決する気がしない
  • 去年も同じテーマで実施したが、現場は変わらなかった
  • 研修では無理だと感じているが、上司にどう説明すればよいか分からない

いずれも、切り分けが済んでいない状態です。

テンツキでは、研修を設計する前に、現場で起きている課題が研修で解決できるものかどうかを切り分けるところからお手伝いしています。

切り分けた結果、「今回は研修より先に、別の手を打ったほうが良い」とお伝えする場合もあります。

効果の出ない研修を実施しても、現場の時間が失われるだけだからです。

まだ課題が整理できていない段階で構いません。
「現場でこういうことが起きている」という話からお聞かせください。

形式
オンライン

所要時間
30分

費用
無料

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この記事を書いた人

中小企業の研修設計・研修動画制作を専門としています。
研修担当者の「何を教えればいいかわからない」という悩みから一緒に整理し、現場で使える研修づくりをサポートしています。

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