その混乱、実は新人だけの話じゃない
「ベテランの自己流をどう整えるか」を考える前に、少し私の経験を話させてください。
現場の混乱がどこから生まれるのか、その入り口が見えやすくなると思います。
私が広告代理店でデザイナーとして働き始めたころの話です。
入社したばかりのとき、先輩からはこう教わりました。
先輩Aデザイン案を出すときは、まず3案つくってから営業に見せる。
1案だけだと比較できないからね。
なるほどと思い、私は毎回きちんと3案をつくるようにしていました。
ところが、しばらくして現場で一番案件を回しているデザイナーを見ると、やり方がまるで違います。
その人は最初から3案もつくらないのです。
営業から依頼を受けると、「この案件なら、この方向でほぼ決まりだと思う」と1案だけラフのデザインをつくり、すぐ営業に見せていました。
しかもそのほうが修正も早く、案件はどんどん進んでいました。
「3案つくると教わったけど、1案でもいいのかな」と思い始めたころ、今度は営業担当からこう言われました。



デザインに入る前に、一回ラフだけ見せてもらえる?
作り込んでから違うとなるともったいないから。
さらに別の先輩と食事にいったときは、こんなアドバイスをもらいました。



営業に途中で見せすぎると細かい修正が増えるから、ある程度完成させてから見せたほうがいいよ。
整理すると、こういう状態です。
- 教えてくれた先輩は「3案つくってから見せる」
- 案件を一番回しているデザイナーは「最初から1案に絞る」
- 営業担当は「つくり込む前にラフを見せてほしい」
- 別の先輩は「途中では見せず、ある程度完成させてから見せる」
それぞれ、言っていることに理由はあるのだろうとは思っていました。
どれかが明らかに間違っている、というわけでもない。
ただ、経験の浅い私には、どの案件で誰のやり方を使えばいいのかまでは分かりませんでした。
結局、新しい案件が来るたびに、
今回は3案つくったほうがいいですか?
ラフの段階で見せますか?
ある程度完成させてからのほうがいいですか?
と、誰かに確認しに行くようにしていました。
なにも考えず思考停止していたわけではありません。
むしろ、いろいろな人のやり方を聞いて考えた結果、どれが正解なのか分からなくなっていたのです。
この感覚こそが、これから話す「ベテランの自己流で現場が乱れる」問題の入り口です。
やり方が複数あること自体は、悪いことではありません。
問題は、そのどれをいつ使えばいいのかという基準が、誰にも整理されていないことのほうにあります。
新人が「誰に聞けばいいか分からない」と戸惑い、「考えず、すぐに質問してくる」といった状態の裏側では、こうやって複数の”正解”が整理されないまま現場に散らばっている可能性があります。
結果が出ている人の行動が「正解」になる
先ほどの私の混乱には、もう一つ見落としていたことがありました。
四つのやり方のうち、私が一番引っぱられていたのは「案件を一番回しているデザイナー」のやり方だった、ということです。
これは、私が特別だったわけではありません。
人は自然と、目の前で結果を出している人のやり方を基準にしたくなります。
ベテランは仕事が早く、ミスも少ない。
現場では頼られる存在です。
だからこそ、そのやり方は「マニュアルに書いてあること」や「研修で習ったこと」よりも、正しく見えてしまいます。
新人からすれば、なおさらです。
研修で聞いた話は、まだ自分の中で腑に落ちきっていないことも多い。
一方で、現場で一番動いている人のやり方は、目の前で結果が出ているのが見えます。
この二つを比べたとき、後者のほうが正しく見えるのは、無理もないことです。
こうして、誰が決めたわけでもないのに、「一番動いている人のやり方」が現場の事実上の基準になっていきます。
それ自体は、悪いことではないと思います。
問題は、その基準がなぜそうなっているのかが誰にも共有されないまま、いつのまにか広がっていくことのほうにあります。
なぜベテランの自己流は広がりやすいのか


ここを個人の“心がけの問題”として捉えてしまうと、どんな対策も噛み合わなくなってしまいます。
自己流が広がるのは、本人の姿勢のせいというより、そうなってしまう背景が現場に揃っている可能性があります。
背景は大きく二つあります。
やり方の理由が、言葉になっていない
ベテランのやり方には、長年の経験から生まれた工夫が詰まっています。
ただ、その多くは、なぜそうしているのか、どこで判断を切り替えているのかが、言葉になっていないことがあります。
つまり、本人の中では理由があって判断しているが、それが外からは見えない状態です。
その結果、周りにこういうことが起きます。
- 動きを真似することはできるが、理由が分からない
- 少し状況が変わると、応用できない
これは、先ほどの私の混乱とも重なります。
私が四人のやり方に振り回されたのも、それぞれのやり方に「どんなときに、それを選ぶのか」という理由が添えられていなかったからでした。
動きだけが見えて、条件が見えない。
だから、真似はできても、いつ使えばいいのかが分からなかったのです。
「それは違う」と言いにくい空気がある
もう一つは、現場の空気の問題です。
成果を出している人や、経験の長い人に対して、「そのやり方は違う」と言うのは簡単ではありません。
私が相談を受けた中にも、



研修担当者ではあるんですが、私より経験豊富な人も多くて今さら口を出していいものか。
現場で不満がでないか心配です。
といった不安や迷いを聞きます。
私にもこのような経験はあるので気持ちはすごくわかります。
しかし、この遠慮が積み重なると、自己流はいつのまにか「当たり前」になっていきます。
ここで大事なのは、ベテラン本人に悪気があるわけではない、ということです。
私自身、学生のころにそれを経験しています。
食品販売のアルバイトを2年ほど続けていて、後半は売店を一人で任せてもらえるようになっていました。
その売店では、運ばれてきた食品を紙で包む梱包作業があります。
最初は教わった通りの包み方でやっていたのですが、あるとき、もっと速くて見た目もきれいに包める方法を思いつきました。
悪気があって変えたわけではありません。
むしろ良かれと思って、その包み方に切り替えました。
様子を見に来てくれる上司にも共有していて、「いいね」と言ってもらえていました。
ただ、今になって振り返ると、その包み方が広まったのは、私と同じパートの数人の範囲まででした。
関西全域に店舗を持つような大きな会社でしたから、売店の一つで生まれた工夫を、わざわざ会社に吸い上げて共有する仕組みはありません。
良いやり方だと上司に認められても、それは「自分と、すぐ近くの数人のやり方」で止まってしまいます。
自己流というのは、たいていこうやって生まれます。
ルールを無視したいからでも、勝手にやりたいからでもありません。
- 昔つくられたルールが、今の現場に合わなくなっていた
- 忙しさの中で、工夫してしのぐしかなかった
- 良かれと思って始めた工夫が、整理されないまま続いてきた
こうした積み重ねの結果として、今のやり方があります。
だからこそ、ベテランのやり方を「正しい・間違い」だけで判断してしまうと、話し合いはこじれやすくなります
現場では実際に何が起きているのか
はっきりしたトラブルとして表に出るわけではないぶん、こうした自己流のズレは見過ごされやすいものです。
研修担当者が気づける違和感は、たとえば新人や若手のこんな行動です。
- 「これで合ってますか」と、毎回確認してくる
- 自分から動かず、指示を待つようになる
- 「誰に聞けばいいですか」が口癖になる
こうした行動を外から見ると、「もう少し自分で考えて動いてほしい」と感じてしまうかもしれません。
けれど、本人の中では、まったく逆のことが起きています。
このことは、私自身がよく分かります。
先ほどの広告代理店の話には、続きがあるからです。
四人のやり方の違いに戸惑っていた私は、そのうち、自分で決めること自体が怖くなっていきました。
3案つくれば「そこまで作らなくてもよかったのに」と言われる。
1案に絞れば「比較できる案も見たかった」と言われる。
早めにラフを見せれば「まだ判断できない」と言われ、作り込んでから見せれば「もっと早く相談してほしかった」と言われる。
どう動いても、誰かの基準からは外れてしまうのです。
こういうとき、逃げ道は二つありました。
- 一番信頼できる先輩を一人決めて、その人のやり方だけを徹底すること。
- 自分で決めるのをやめて、動く前に必ず誰かに確認すること。
私が選んだのは、②の後者でした。



自分で決めて外すくらいなら、先に聞いたほうがいい。
そう考えるようになっていったのです。
依頼を受けても、すぐには手を動かさずにまずは確認。
今回は何案ですか?
どの段階で見せればいいですか?
ここまで進めて大丈夫ですか?
以前なら自分なりに考えて進めていたところでも、ひとつずつ確認してから動くようになっていきました。
あるとき、上司から「自分で判断して」と言われました。
正直、不満が溜まっていた私は、思っていたことを言葉にしました。
要点はこうです。
みんな基準が違うので、自分で判断して外すと、やり直しでかえって遠回りになる。
だから毎回確認している。
そもそも今の状態は、正解か不正解かではなく、”誰々派”という好みの違いで、それぞれが自分の上司のやり方に合わせているだけではないか。
自分のように、案件によって組む相手が変わる立場だと、どれが正解なのか分かりようがない。
このことを伝えた結果として、この会社での私のやり方は、ひとまず「3案を出す」に決まりました。
完璧な正解が決まったわけではありません。
それでも、「どう動けばいいか分からない」状態からは抜け出せました。
ここが、この問題の一番の核心だと思っています。
新人や若手が指示待ちに見えたり、確認ばかりしてくるように見えたりするとき、その多くは能力の問題ではありません。
まじめに考えていないのでもありません。
むしろ、まじめに考えているのに、迷わないための基準が現場にないだけの可能性があります。
そして、たった一つでも基準が決まると、人は動けるようになります。
私の場合の「3案に固定」が、まさにそうでした。
裏を返せば、その基準を曖昧にしているのが、整理されないまま広がっていく一人ひとりの自己流だということになります。
やりがちなNG対応|正論だけでは動かない
基準がないと現場が迷う。
ではどうするか——
ここで多くの場合、最初に出てくるのが「正しいやり方を決めて、それを徹底させよう」という方向です。
もちろん方向としては間違っていません。
ただ、正論だけでは現場は動かないことが多い印象があります。
よくあるのは、こういう対応です。
- ルールを守るよう、一斉に通達する
- マニュアルを一から作り直す
- 研修で「これが正解です」と強調する
どれも正しいのですが、共通して抜けがちなのが、現場の忙しさや人手の状況という前提です。
正しさだけを配っても、受け取る側にそれを実行する余裕がなければ、「言っていることは分かるけど……」という空気だけが残ります。
私が広告代理店で「3案に固定」でひとまず動けるようになったのも、上から正解を通達されたからではありませんでした。
自分の困りごとを言葉にして、その場の相手と、ひとまずの基準をすり合わせたからです。
もし私が黙ったまま確認を続けていただけだったら、基準は決まらず、迷い続けていたと思います。
だからこそ、次に必要なのは「正しいやり方を決めること」よりも、「何がバラバラで、どこで迷っているのか」を先に整理することです。
改善の考え方|正解を増やすより、判断を減らす
正論を重ねても現場が動かないのは、正しさが足りないからではありません。
むしろ逆で、正解が多すぎることのほうが、現場を迷わせています。
私が四人のやり方に振り回されたのも、どれも間違っていなかったからでした。
3案にも1案にも、ラフ先出しにも作り込みにも、それぞれ理由があった。
正解が四つあったからこそ、どれを選べばいいか分からなくなっていたのです。
だとすれば、目指す方向は「正しいやり方をもう一つ増やすこと」ではありません。
目指すのは、迷わない現場です。
そのために研修担当者が最初にやることは、新しい正解を決めることではなく、
- いま、何がバラバラになっているのか
- 現場は、どこで迷っているのか
を整理することです。
私の場合も、状況が変わり始めたのは、新しいやり方が増えたからではありませんでした。
「これは正解不正解の問題ではなく、”誰々派”という好みの違いなんだ」と、バラバラの正体が言葉になったからでした。
何がバラバラなのかが見えれば、どこを揃えて、どこは任せるかを決められます。
次からは、その具体的な進め方を見ていきます。
改善策①|ベテランの自己流を「見える形」にする


何がバラバラかを整理するといっても、最初から正しく分類しようとする必要はありません。
まずやるべきは“聞き取り”。
ベテラン一人ひとりが実際にどうやっているのかを、そのまま聞き取ることです。
ここでの大事なポイントは、いきなりやり方を整えようとしないことです。
- ベテランに、普段のやり方を聞く
- その場で良し悪しは判断しない
- 「なぜ、そうしているのか」を聞く
この段階では、評価や指導を持ち込まず、聞くことに徹します。
それだけで、表に出ていなかったものが見えてきます。
- 長年かけて身につけた、暗黙の工夫
- 効率のいい、けれど少し危ない近道
- 昔のルールと、今の現場とのズレ
思い出してほしいのですが、私が四人のやり方に振り回されたのは、それぞれの「動き」は見えても、「なぜそうするのか」という理由が見えなかったからでした。
逆に言えば、この理由さえ言葉になれば、バラバラに見えたやり方も整理できるようになります。
だからこそ、この段階では“何をしているか”より“なぜそうしているか”を聞くことが大事になります。
聞くときの「問いの型」
とはいえ、「なぜそうしているんですか」とそのまま聞くと、詰問のように聞こえてしまいます。
相手が身構えない聞き方には、いくつか型がありますので、それをご紹介します。
- 「そのやり方って、どういうときにやってます?」(条件を聞く)
- 「これ、やらない場合どうなりますか?」(理由を裏側から聞く)
- 「昔からこのやり方でした? 何かきっかけがあったんですか?」(背景を聞く)
これらは、どれも正しさを問い詰める聞き方ではありません。
相手のやり方の裏にある「条件」や「理由」を、本人に気持ちよく話してもらうための問いです。
特に一つ目の「どういうときにやってます?」は、このあと現場を整えていくうえで一番大事な情報になります。
やり方そのものより、そのやり方を選んでいる条件のほうが、整理の手がかりになるからです。
改善策②|「ここまではOK」の線を引く


自己流を見える形にできたら、次はそれを、揃える部分と任せる部分に仕分けていきます。
ここで先に断っておきたいのは、これは“ベテランのやり方を取り上げて縛るための作業ではない”、ということです。
目的は、全部を統一することではなく、
ここまでは自由に任せる。
ここから先は揃える。
この境目線を言葉にすることです。
たとえば、こんな線の引き方があります。
- 作業の手順は多少前後してもいい。ただし、お客さまへの説明内容は揃える
- 効率を優先したやり方は任せる。ただし、トラブルが起きたときの報告ルートは統一する
やり方のすべてを正解・不正解で裁くのではなく、「任せるところ」と「揃えるところ」を分ける。
これだけで、ベテランは自分の工夫を否定されずに済み、新人は迷わなくなります。
「揃える/任せる」を書き分けるシート
もし、どこで線を引けばいいか迷ったら、次の三つの問いに当てはめて仕分けてみてください。
- そのやり方が人によって違うと、お客さまや次の工程に影響が出るか
-
→ 出るなら「揃える」
- 結果が同じなら、途中のやり方は本人に任せてよいか
-
→よいなら「任せる」
- トラブルや例外が起きたとき、対応がバラバラだと困るか
-
→ 困るなら「揃える」
大まかに言えば、外に影響が出るところ・困りごとに直結するところは揃える、そこにたどり着くまでの過程は任せる、という分け方です。
私自身、この「揃える/任せる」の線引きに、実は助けられたことがあります。
広告代理店で私のやり方が「3案を出す」に決まったとき、その方法に反対だった先輩は、こう言いました。



このやり方は仕事が増えるだけで、よくないと思うけどね。
でもまぁ、仕方ないね。
やりかたに不満はあったようですが、それでも、最後には「まあ、仕方ないね」と受け入れてくれました。
今思えば、あのとき決まったのは「3案が唯一の正解だ」ということではありませんでした。
「新人がどう動くかについては、ひとまず3案で揃える」という、線引きの一つだったのだと思います。
だから、自分のやり方を否定されたわけではない先輩も、渋々ではあれ、納得できたのだと思います。
改善策③|ベテランを「敵」にしない伝え方


揃えるところが決まっても、それをどう伝えるかで、現場の空気は大きく変わります。
同じ内容でも、伝え方ひとつで、ベテランが身構えることもあれば、すんなり受け入れてくれることもあります。
ポイントは一つだけです。
主語を「人」ではなく「困りごと」に置くこと
たとえば、あるベテランのやり方が原因で、新人が混乱しているとします。
それをそのまま伝えると、こうなります。



Bさんのやり方だと、新人の判断基準がバラバラになるんです。
言っている内容は間違っていません。
でも、これだとBさん本人は「自分のやり方を否定された」と受け取りやすくなります。
“悪気なく工夫してきた人”ほど、身構えてしまいます。
では、同じことを、こう言い換えるとどうでしょうか。



新人が、どれを基準に動けばいいのか迷っているみたいで。
どこを揃えたら迷わなくなりそうか、いつものやり方をふまえて相談させてもらえませんか?
前半で困りごとを共有し、後半で「あなたの経験を貸してほしい」と相談する。
こうすると、ベテランは自分のやり方を否定される相手ではなく、現場を一緒に整える側にまわってくれます。
責めないだけでなく、味方になってもらう。
ここまでできると、線引きの話はぐっと進めやすくなります。
ただ、これは単なる言い換えのテクニックではありません。
その前に、「誰かのやり方が悪い」と考えるのではなく、「それぞれのやり方には理由がある。ただ、共通の基準がないために新人が迷っている」と問題を捉えることのほうが大切です。
私自身のことを振り返ると、それがよく分かります。
誰も間違っていない、ただ基準がないだけ
広告代理店で確認ばかりしていたころ、私の目には、どの先輩のやり方も、それぞれ理由があって間違っていないように見えていました。
だから、「あの先輩のやり方が悪い」とは思いようがなかったのです。
上司に伝えたときも、狙ってそうしたわけではなく、自然と
みんなのやり方が違うので、自分がどれを基準に動けばいいのか分からない
という、自分の困りごとのほうを口にしていました。
もし私が「誰々さんのやり方が悪い」と個人を名指ししていたら、話はこじれていたと思います。
でも、そもそも誰かが間違っているとは思っていなかったので、そういう言い方にはなりませんでした。
結果として、責める・責められるの構図にならずに、「では3案で揃えよう」という話にたどり着けたのだと思います。
つまり、「誰も間違っていない、ただ基準がないだけだ」と現場が見えていれば、伝え方は自然とやわらかくなります。
逆に、この見方がないまま言葉づかいだけ気をつけても、どこかに「あなたのやり方が問題だ」という響きが残ってしまいます。
まず現場をどう見るか。
そこが出発点です。
研修を使って、現場を「整える」


ここまで見てきた改善策は、どれも「誰かを教え直す」ためのものではありませんでした。
ベテランのやり方を見えるようにして、揃えるところと任せるところの線を引き、それを敵をつくらない形で伝える。やっていることは、教えることよりも、整えることに近いと思います。
このことを、私は自分の経験を通して、あとから理解しました。
たった一つの基準が、迷いを減らす
広告代理店で「3案に固定」と決まったあと、しばらくは、言われたとおり毎回3案をつくっていました。
けれど数か月も経つと、少しずつ感覚が変わってきました。



この案件は方向性がはっきりしているから、3案もいらないな。
と、自分で判断できるようになっていったのです。
ときには「今回はやっぱり3案で」と先輩に言われ戻すこともありましたが、以前のように、動く前にいちいち確認しなければ不安、という状態ではなくなっていました。
なぜ変われたのか。
今考えると、答えははっきりしています。
「3案に揃える」という基準が一つできたことで、そこを軸に「今回はここまで」「今回はここは省いていい」と、自分で調整できるようになったからです。
基準がゼロだったころは、どこから考えていいかも分からなかった。
たった一つでも軸ができると、人はそこから自分で動き出せます。
違っていたのは「やり方」ではなく「条件」だった
そして今になって思うのは、そもそもあの四つのやり方は、最初から整理できたはずだ、ということです。
3案つくるのも、1案に絞るのも、間違いではありませんでした。
ラフで見せるのも、作り込んでから見せるのも、間違いではなかった。
違っていたのは「やり方」ではなく、「そのやり方を選ぶ条件」でした。
- 方向性が固まっていない案件はラフを複数
- 固まっている案件は1案で
というように、どんなときにどれを使うのかを一度言葉にしておけば、私はあんなに迷わずに済んだはずなのです。
これは、ベテランの自己流の話と、根っこは同じです。
ベテランがそれぞれのやり方を通しているのも、反抗でも、いい加減さでもありません。
一人ひとりが、自分の経験の中で、いちばんいいと思うやり方に辿り着いているだけです。
私を振り回した四人の先輩と、まったく同じ構図です。
ただ、その一つひとつが、「どんなときに、それを使うのか」という条件とセットで整理されてこなかった。
それだけのことなのだと思います。
だとすれば、研修担当者がやることは、はっきりしています。
誰が正しいかを決めることでも、ベテランに自己流をやめさせることでもありません。
それぞれのやり方を持ち寄って、「これはどんなときのやり方か」を一緒に言葉にしていく。
揃えるところは揃え、任せるところは任せる。
その整理をする役割こそが、研修担当者にしか担えない仕事だと私は思います。
自己流は、一度の研修で消えるものではありません。
けれど、話せる場があり、判断の軸が見え、困ったら聞いていいと思える。
その状態を少しずつつくっていくことで、現場の混乱は静かに減っていきます。
正解を配ることではなく、条件を整理すること。
そこに研修担当者の一番の役割があります。
まとめ|ベテランの自己流で現場が乱れる本当の理由
ベテランの自己流で現場が乱れるのは、誰かが悪いからではありません。
一人ひとりが、自分の経験の中でいちばんいいと思うやり方に辿り着いている。
ただ、その一つひとつが「どんなときに、それを使うのか」という条件とセットで整理されてこなかった。
乱れの本当の理由は、その一点にあります。
だから、研修担当者がやることも、はっきりしています。
- ベテランのやり方を、評価せずにそのまま聞き取る
- 揃えるところと、任せるところの線を引く
- 個人を責めず、「困りごと」を主語にして伝える
- 正解を一つに決めるのではなく、「どんなときにどれを使うか」を言葉にする
正解を配ることではなく、条件を整理すること。
やり方そのものを裁くのではなく、それぞれのやり方が活きる場面を整理していく。
それが、研修と現場をつなぐ、研修担当者にしかできない仕事です。
すぐに大きくは変わりません。
それでも、話せる場があり、判断の軸が見え、困ったら聞いていいと思える現場をつくっていけば、混乱は少しずつほどけていきます。
私自身、四人の先輩のあいだで迷い続けた新人でした。
あのとき足りなかったのは、正解ではなく、「どんなときに、どれを選ぶのか」という一つの整理でした。同じことが、いま自己流に見えている現場にも、きっと当てはまります。
現場のやり方がバラバラなまま、どこを揃えて、どこを任せるかを整理しきれずにいる。
もし今そう感じているなら、その整理を一緒に進めるお手伝いができます。
研修内容を一度、整理してみませんか?


研修内容を整理するところから、一緒に考えるお手伝いをしています。
- 何を教えるか
- どこまでやるか
- どう進めるか
研修を考える中で、ここが曖昧なまま進んでしまうケースはとても多いです。
その結果、「伝えたつもりだった」「現場で行動が変わらなかった」という声もよく聞きます。
まずは、今の研修内容や悩みを言葉にして整理するところからで大丈夫です。
まだ具体的に決まっていなくても問題ありません。
「この研修、どう組み立てればいいんだろう?」——そう感じたタイミングが、見直しを始めるベストなタイミングです。
形式
オンライン
所要時間
30分
費用
無料
まだ具体的に決まっていなくても構いません。「うちの場合はどうだろう」から、ご相談ください
















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