eラーニングが社員に見てもらえない理由|中小企業の導入でよくある失敗と対策

目次

eラーニングを導入したのに、社員が見てくれない。

以前、eラーニングに関しての相談をいただいたことがあります。

件名:eラーニングの導入について
eラーニングを導入しているのですが、なかなかうまく活用できていません。
教材は用意していて、受講の案内もしています。
ただ、期限ギリギリまで見ない人が多く、何度か声をかけて、ようやく受講してもらっている状態です。
受講済みにはなっていても、現場では教材で扱ったはずの内容について、同じ質問が出てくることがあります。
「教材をもっと分かりやすくしたほうがいいのか」「動画の作り方に問題があるのか」「そもそも使い方を見直したほうがいいのか」、判断できずにいます。
せっかく導入したので、ただ受講してもらうだけではなく、実際の仕事で使われる形にしたいと考えています。
どこから見直していけばよいでしょうか。

こうした悩みは、eラーニングを導入した会社では起こり得るものだと思います。

そして、このような状況になると、まず疑いたくなるのが「教材の分かりやすさ」や「動画の作り方」です。

上司

もっと分かりやすい教材にすれば見てもらえるのではないか。
動画を短くしたり、見やすくしたりしたほうがいいのではないか。

もちろん、教材そのものを見直したほうがいい場合もあります。

ただ、話を聞いていくと、教材の出来とは別のところに原因が見つかることもあります。

この記事で特に取り上げたいのが、教材を「見なくても仕事が進んでしまう」状態です。

  • 教材が用意されていても、見なくても仕事を始められる。
  • 分からないことがあれば、その都度誰かに聞けば解決できる。

そんな環境では、本人に悪気がなくても、教材は後回しになりやすくなります。

なぜそう言えるのか。

まず、私自身の経験からお話しします。


「内容は分かりやすかった」のに、見なかった話

研修設計の仕事が軌道に乗る前、私はフリーランスで動画編集をしていました。

ある日、取引先から編集手順をまとめた動画を共有してもらったことがあります。
その取引先には独自の編集ルールがありました。

  • 素材を並べる順番
  • テロップの入れ方
  • プロジェクトファイルの整理方法
  • 書き出しの設定

そうした決まりが一本の動画にまとめられていて、案件の最初に、

編集手順をまとめてあるので、確認しておいてください」

とURLが送られてきました。

動画の内容が分かりにくかったわけではありません。

実際の画面を見ながら手順が説明されていて、きちんと見れば、その取引先のやり方を理解できる内容でした。
ですが私は結局、その動画を最初から最後まで見ることはありませんでした。

理由は単純です。

見なくても、編集を始められてしまったからです。

しかも、その動画は20分近くありました。

フリーランスの仕事は出来高です。
どれだけ質を保ちながら早く仕上げるかが、そのまま収入に直結します。

その感覚からすると、20分を丸ごと見るのは、正直なところ時間の使い方として惜しい。
しかも動画編集をある程度やってきた人間には、ほとんど知っている操作です。

だから私の中では、こういう計算が働いていました。

わたし

20分かけて全部見るより、まず手を動かして、迷ったところだけ確認するほうが早い。

念のため言っておくと、これは「20分の動画は長すぎる」という話ではありません。
必要な内容を説明すれば、20分になることもあるでしょう。

問題は、その20分を見ることが、私の仕事の流れに組み込まれていなかったことでした。

見れば役に立つことは分かっています。
ただ、今すぐ見なければ編集できないわけではありません。

複数の案件を抱えていると、どうしても目の前の作業が優先されます。
そうして「必要になったら見よう」と後回しにしたまま、結局ほとんど見ない状態になっていました。

今振り返ると、もう一つ大きかったのが、動画を見る20分を「仕事の時間」と捉えられていなかったことです。

出来高で動いている私にとって、報酬につながるのは編集作業でした。
動画を見る20分は、その前に自分で負担する時間のように感じていたのです。

だから、「まず編集を進めて、視聴はあとで」という判断になりました。

もし最初から、

この動画を確認するところまで含めて、この案件の作業です
動画をご確認いただいた後、素材をお送りします。

という形で工数に組み込まれていたら、私はおそらく最初に見ていたと思います。

動画を見ることが、「時間があればやるもの」ではなく、「案件を進めるために必要な仕事」になるからです。

動画を見る時間そのものを、仕事の一部として最初から設計しておくこと。

そこまでできて初めて、教材は「用意されているもの」から「実際に使われるもの」になるのだと思います。


「見なくても回っている」は、こうやって確かめられる

ここまでは私自身の話でした。
ですが、「教材を見なくても仕事が進んでしまう」という状態は、職場でも起こります。

このとき厄介なのが、教材を用意した側は、

内容が分かりにくいのかもしれない。
もっと短くしたほうがいいのかもしれない。

と、つい教材そのものに原因を探してしまうことです。

冒頭で紹介したご相談でも、実際に話を聞きながら原因を探っていきました。
教材の中身ではなく、見なかった人がそのあとどうやって仕事を進めているのかを聞いてみました。

テンツキ

経費精算の動画は、もともと何のために作ったんですか?

担当者

同じ質問が総務に何度も来ていたので、まず動画を見てもらえるようにしようと思って作りました。

テンツキ

今も質問は来ますか?

担当者

来ますね。

テンツキ

そのとき総務ではどうしていますか?

担当者

その場でやり方を教えています。

テンツキ

動画を見てもらうように案内し直すことはありますか?

担当者

忙しいと、そのまま答えてしまうことが多いです。

テンツキ

ということは、社員からすると、動画を見なくても総務に聞けば経費精算は終えられる状態なんですね?

ここで、教材とは別の問題が見えてきました。

見なかった人は、分からないたびに総務に聞きます。
しかも本人にとっては、そのほうが早い。

動画を探して20分見るより、その場で聞いてしまったほうが、確実に早く片づくからです。

でも、その一件ごとに、総務の手は止まっています。

つまり「見なくても回っている」ように見えて、実際に回しているのは総務です。
負担が消えたわけではありません。

教材を見なかった人から、質問を受ける総務へ、移っているだけです。
しかも見た目は回っているので、この移動には気づきにくい。

私が送られた動画を見なかったときも、同じ環境でした。

動画を見るより、分からないことがあれば担当者に聞いたほうが早い。
しかし、それは担当者の時間を奪っていたわけです。

見なくても回る、というのは、たいてい「誰かが代わりに払っている」状態です。

教材を見ないコストが、質問される側にそのまま移っている。
それだけのことなのです。

だから、原因を確かめるときは、教材の中身だけを見ても足りません。

それを見ていない人が、今どうやって仕事を進めているか。
そこまで見て、はじめて本当の原因が見えてきます。

見てもらえない教材があるなら、順番にこう確かめてみてください。

  • その内容を見ていない人は、今どうやって仕事を進めているか。
  • その人は、誰かに聞いたり自己流で対処したりして、実際に仕事を終えられているか。
  • その教材は、見なくても困らない状態になっていないか。

この三つを確かめると、原因が教材の中身なのか、それとも運用の側なのかが見えてきます。

そして多くの場合、行き着くのは後者です。

教材そのものではなく、それを見なくても回ってしまう仕事の流れのほうに、原因があります。


教材を「見る場面」まで決めて、はじめて設計になる

ここまで記事を読み進めると、教材は用意するだけでは十分ではないことが分かったと思います。

見てもらえない理由の一つは、教材を見なくても仕事を進められてしまうことです。

だとすれば必要なのは、教材をさらに作り込むことではありません。
教材を見ることを、仕事の流れの中に組み込むことです。

そのためには、「誰が」「どの場面で」「何をするのか」まで決めておくことが必要です。

私が共有された動画編集の動画で考えるなら、たとえばこうです。

  • 誰が:外注の編集者が。
  • どの場面で:素材を受け取ってから、初稿の編集を始める前に。
  • 何をする:動画で編集ルールを確認し、必要な準備をしてから編集に入る。

さらに、その確認時間も案件に必要な作業として最初から見込まれていれば、動画を見ることは「時間があればやること」ではなく、編集に入る前の仕事になります。

私の場合、この部分が曖昧だったため、まず編集を始めて、分からないところだけ確認するという進め方になっていました。

経費精算の動画でも考え方は同じです。

  • 誰が:経費精算をする社員が。
  • どの場面で:初めて経費精算をするときに。
  • 何をする:動画で手順を確認してから申請する。

こうして見る場面まで決まっていれば、「分からなければ総務に聞く」以外の流れをつくることができます。

私は、これを「役割→場面→行動」と整理しています。


役割誰が場面どの場面で行動どう動くのか

教材を作るときは、内容を考えるだけでなく、ここまで決めておくことが大切です。

教材は、作っただけでは使われません。
実際に使ってもらうためには、内容だけでなく、使う場面まで仕事の流れの中に組み込んでおく必要があります。

では、「役割→場面→行動」を具体的にどう決めていけばいいのか。
次に、実際の手順を見ていきます。


見てもらえる教材にする、5つのステップ

やることは、教材を作り直すことではありません。
今ある教材を、仕事の流れのどこで見るのかを決めることです。

いきなり全部を整えようとすると、かえって進みません。
まずは一つの教材だけを選んで、次の順番で試してみてください。

ここで紹介するのは、冒頭で話したご相談の中で、実際に一緒に組み立てた手順です。


ステップ①|変えたい行動を一つだけ決める

最初に決めるのは、「どの教材を見せるか」ではありません。
「現場の、どの行動を変えたいか」です。

経費精算の例で言えば、変えたい行動は「分からないと総務に聞く」を「まず動画を見てから申請する」に変えること。

ここがはっきりしていないと、あとの手順が全部ぼやけます。
欲張らないのがコツです。

一度に複数を変えようとすると、現場も案内する側も追いきれません。

まずは一つ。

同じ質問が最も多い場面や、新人が繰り返しつまずく場面を選ぶと、変化が見えやすいです。


ステップ②|どの場面で見るかを、具体的に書き出す

変えたい行動が決まったら、その教材を「どの場面で見るか」を決めます。

前の章で見たとおり、ここが仕事の流れの中に入っていないと、教材は後回しになります。

このステップでのこつは、場面をできるだけ具体的に書き出すことです。

「経費精算のときに見る」では、まだあいまいです。

「経費精算を申請する画面を開く前に、この動画を見る」まで具体的にすると、いつ見ればいいかが本人にも分かります。

これは、心理学で「実行意図」と呼ばれる考え方にも近いものです。

「いつかやる」と決めるだけではなく、「この状況になったら、この行動をする」ときっかけと行動を結びつけることで、実際の行動に移しやすくなることが知られています。

歯医者の予約を考えると分かりやすいかもしれません。

「近いうちに来てください」ではなく、「○月○日の18時、仕事帰りに来てください」と、日時だけでなく行動する場面まで具体的にします。

人は「いつ・どの場面で・何をするか」が具体的になるほど、実際の行動に移しやすくなります。

書き出すときは、こう埋めてみてください。

〔誰が〕〔どの作業の前に〕〔この教材を見る〕

この一文が具体的に埋まれば、見る場面は決まったことになります。

埋めてみて言葉に詰まるなら、まだ場面が曖昧な状態です。


ステップ③|現場への案内の仕方を決める

見る場面を決めたら、それを現場にどう伝えるかを決めます。
ここで案内の言葉がずれると、せっかく決めた流れが機能しません。

効果的なのは、「見ておいてください」ではなく、仕事の順番として伝えることです。

そのまま使える声かけ例

「経費精算は、先にこの動画を見てから申請してください」
「この作業に入る前に、まずこの動画で手順を確認しておいてください」
「分からなくなったら、総務に聞く前に、まずこの動画を見てみてください」

反対に、次のような案内は避けます。

やりがちなNG例

「時間があるときに見ておいてください」——その時間は、たいてい取れません。
「一応、共有しておきます」——見なくてもいい、と受け取られます。
「見ておくといいと思います」——任意になった瞬間、優先順位が下がります。

違いは、見ることを「任意」にするか、「仕事の順番」にするかです。

強制する必要はありません。
仕事の流れの中に自然に置く。

それだけで、見られ方は変わります。


ステップ④|期間を区切って試す

決めた流れを、いきなり全社に広げる必要はありません。
一つの教材、一つの場面で、期間を区切って試します。

どのくらい試すかは、その作業の頻度によります。

毎日発生する作業なら短い期間でも様子が見えますが、月に数回しかない作業なら、判断できるだけの回数がたまるまで少し長めに見ます。

大事なのは、期間をあらかじめ決めておくことです。
区切りがないと、うまくいっているのかどうかを振り返るタイミングを逃します。

この間は、教材の出来を気にしなくて大丈夫です。
今あるもので試します。

整えるのは、使われることが分かってからで十分です。


ステップ⑤|狙った変化が起きているかを見る

決めた期間がたったら、結果を見ます。

ここで見るのは、受講率ではありません。
「変えたかった行動が、変わってきたか」です。

経費精算の例で言えば、見るのはこの点です。

総務への同じ質問は、減ってきたか。

もちろん、質問が減った理由が動画だけとは限りません。
ほかの要因が重なることもあります。

それでも、狙っていた方向に変化が出ているなら、決めた流れは機能し始めています。

逆に、受講済みの数だけが増えて、現場の様子が変わっていないなら、まだ「見ただけ」で終わっている可能性があります。

そのときは、見る場面が仕事の中に組み込まれていたか、見なくても回ってしまう状態が残っていないかを、もう一度確かめてみてください。


まとめ|教材は「作る」より「使われ方」から

eラーニングが見てもらえないとき、つい教材の中身を疑いたくなります。
分かりにくいのだろうか、短くしたほうがいいのだろうか、と。

ですが、ここまで見てきたとおり、原因はたいてい別のところにあります。

その教材を見なくても、仕事が進んでしまう。だから後回しになる。
見る場面が、仕事の流れの中に決まっていないのです。

私が手順動画を見なかったのも、総務に質問が集まり続けるのも、同じことでした。
教材が悪いのではなく、見なくても回ってしまう状態が残っていた。

それだけです。

そして、見なくても回っているように見えて、その負担は消えていません。

見なかった人の代わりに、質問を受ける側が払っています。
見る場面を決めることは、その人の負担を減らすことでもあります。

だから、教材を何度も作り直す前に、一度こう考えてみてください。

誰が、どの場面で、その教材を見るのか。
それが仕事の流れの中に決まっているか。

決まっていなければ、まずそこから。
教材を整えるのは、そのあとで十分です。


研修の「使われ方」から、一緒に整理しませんか

テンツキでは、研修やeラーニングを「作る」ところではなく、「どう使われるか」から一緒に整理するお手伝いをしています。

何を教えるか。どこまでやるか。
それを、仕事のどの場面で使ってもらうか。

ここが曖昧なまま進むと、「用意したのに使われない」「受講はされたのに、現場が変わらない」ということが起こります。

この記事で見てきたことと、同じです。

まだ具体的に決まっていなくても大丈夫です。

今の教材や研修について、「見てもらえない」「現場が変わらない」と感じているなら、その状態を言葉にして整理するところから始められます。

どこから見直せばいいか分からない。そう感じたときが、見直しの始めどきです。

お気軽にご相談ください。

形式
オンライン

所要時間
30分

費用
無料


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この記事を書いた人

中小企業の研修設計・研修動画制作を専門としています。
研修担当者の「何を教えればいいかわからない」という悩みから一緒に整理し、現場で使える研修づくりをサポートしています。

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